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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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狭霧の回想

翌日、俺は端末の呼び出し音で目を覚ました。


端末をどこに置いて寝たのか覚えてなかったため、音の方向を頼りに端末を探し歩いているうちにすっかり目が覚めた。


「おっは~! 蓮、起きている?」


「おはよう、陽菜かぁ。今、起きた」


「ごめんー! 陽菜、起こしちゃったみたいね」


「気にしないでいいよ。で、何かあった?」


「何かあったって、昨日いろいろあったじゃん! 陽菜、ずっと蓮と狭霧と話したくて仕方なかったんだよ~」


「……確かに。そうだよな。ふわぁ~」


「まだ眠そうだねー」


「いや、大丈夫。お腹がすいてきたよ」


「じゃあ、食堂に三十分後に集合ね。朝食しながら話そう~」


「オッケー。狭霧に連絡は?」


「もう済んでいるよー」


「分かった。じゃ、後程」


端末をテーブルに置くと、俺はまずシャワーを浴びた。


大浴場で湯舟にゆったり浸かりたいところだが、夜までお預けだな。


シャワーを浴びてクローゼットの前に来て、俺は何を着ようかと考えた。


今日、俺たちは公休……というか、訓練なしの日だった。


まあどこかに出かけるわけではないし、着物に袴、いつもの服装でいいだろう。


燃料及び資源不足から化学繊維を使った洋服の供給がぐっと減り、今の日本は再び着物文化に回帰していた。


食堂に向かって歩きながら、改めて昨晩の食堂の変貌ぶりを思い出していた。室内に水をはり、沢山の舟を浮かべ、桜を天井に飾る……。あれだけのことをして、今朝、食堂は営業できているのだろうか?


そんな俺の心配は杞憂に過ぎず、食堂に着くと、そこはテーブルと椅子がおかれたいつも通りの食堂の姿だった。床を見ても濡れているとか、桜の花びらが落ちているとか、そんなこともなかった。


「蓮~、こっち、こっち!」


先に到着していた陽菜と狭霧が窓際のテーブルで手を振っていた。二人とも着物に袴姿だ。


朝の八時半ということで、食堂には俺ら以外に、二組しか利用者はいなかった。昨日の歓迎会の参加者の多くが今日は普通に仕事をしている。訓練の開始時刻も六時半というぐらいだから、防衛本部の朝は早く、みんなとっくに朝食は済ませているのだろう。


みんな任務に就いているのに、俺たちが休みなのは申し訳ないな……。


そんな気持ちになりつつ、俺が「美味しさ保証!二日酔いの朝にもピッタリな朝食セット」を購入し、席に着くと、既に食べ終えていた狭霧が持っていたノートを開いた。


「昨晩のうちにまとめておいた」



眠気が完全に吹き飛んだ。俺がシャワーを浴びてすぐ寝たのに対し、狭霧はちゃんと明日のことを考え行動していた。身が引き締まる思いだった。


「とりあえずみんなが気になっているだろうことを時系列の新しい順に並べてみた。


・歓迎会で春秋先輩と僕の間に何があったのか

・歓迎会の会場の謎

・歓迎会参加者の服装

・スペシャル・ムービーの隠し撮り

 (仙人爺さんは撮影されているのか?)

・仙人爺さんの件


ざっとこんな感じだ。まずは春秋先輩の件を話すよ」


俺と陽菜が頷くと狭霧は椅子にもたれ、あの時のことを思い出すようにしながら口を開いた。


「えま先輩に促され、舟に乗ると、早速乾杯になった。僕以外はみんなお酒だった。特に天津頭領はご機嫌でお酒の進み具合も早く、それに引っ張られてか、えま先輩も春秋先輩もお酒が進んでいたように見えた」


だん先輩の推測通りだった。


「そしてえま先輩は食事をしながら、天津頭領、春秋先輩、そして自分自身の紹介をした」


その時にえま先輩によって語られた佐保先輩は、第十一期入隊で、とても真面目。訓練でも素晴らしい結果を出し、公休や非番の日にも自主トレをする優等生と言ったもので、やはり姉の件は一切含まれていなかったという。


「その後、僕の自己紹介となったけど、自分の父に関することは一切言わず、当たり障りのない話だけをした。そしてその後は食事をしながら雑談だった。雑談中の春秋先輩は、自分から話すことはないが、会話は聞いていたし、笑うことはないが、口元が緩むこともあり、普通だった」


狭霧はコップに残っていた水を一口飲み、話を再開した。


「でもふとえま先輩が『そういえば歴代黒影頭領に天野さんっていましたよね?』と天津頭領に聞いたんだ。天津頭領は『ああ、いたね』とだけ答えたけど、その瞬間春秋先輩の顔色、顔つきが変わった。眼光が鋭く、殺気が感じられた。すると天津頭領が『佐保、悪いが酒なくなってしまった。ちょっと取ってきてもらえないか』と春秋先輩に頼んだんだ。酔っぱらって笑顔で言っているし、自然な流れでそう言ったけど、春秋先輩の異変に気が付き、この場から距離をおかせようとしたんだと思う」


天津頭領らしい采配だ。


「春秋先輩は真面目な性格だし、頭領からの頼みに従い、身軽にジャンプして、お酒を乗せた舟に乗り移った。頼まれたお酒を取りに行ったんだ」


「それじゃあその時は一触即発は避けることができたのね」


陽菜がたっぷりクリームを乗せたパンケーキを頬張った。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

毎日更新しているので、また読みに来ていただけると幸いです。

引き続きよろしくお願いします。


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