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狭霧の父親

「先生、気分でも悪いの?」


陽菜が心配そうな顔で木ノ花先生を見た。

木ノ花先生は「乗り物酔いでもしたのかも」と苦笑した。


「もしかして木ノ花先生は父のことを御存知ですか?」


狭霧の言葉に木ノ花先生の表情が引きつった。


「……ええ、もちろん。知っているわよ。第二期で黒影に入隊して、後に頭領を務めたあの天野さんでしょ」


「はい。そうです」


木ノ花先生は何か動揺しているようだったが、それを隠すように笑顔を浮かべた。


「天野頭領もイケメンだったけど、そっくりね。その目元とか鼻筋とか。写真より実物の方が本当に似ている。空港のロビーで狭霧くんを見た時はビックリしちゃったわ」


「そうですか。同じことを祖父や祖母にも言われます」


陽菜と俺はきょとんして狭霧と木ノ花先生を見た。

すると狭霧が口を開いた。


「僕の父は黒影の頭領だった。でも任務中に亡くなってね。……母は産後の肥立ちが悪くて亡くなったって聞いている」


狭霧の両親が亡くなっていたという衝撃の情報に、俺は凍り付いた。


流石の陽菜もこの情報に対してなんと言葉を発すればいいのか分からないようで、息を飲んで固まっていた。


本来初対面の相手に話す内容ではないはずだ。


木ノ花先生の様子がおかしくなった理由も理解できた。


先生は立場上、狭霧の基本情報は書類などで確認しているはずだ。当然狭霧の父親が誰であるか、そして任務中に死亡したことも知っていた。


きっとこの話題にいかないように注意していたのに、流れでこの話にいってしまい、とても困っていたのではないか。


「そうだ、陽菜。黒影にはイケメンがいるって聞いたよ」


狭霧はこの凍り付いた空気を変えようと、自ら別の話題を持ち出した。


陽菜はハッとした表情を一瞬見せたが、すぐに思春期の少女として正しい反応を示して見せた。


「本当に⁉」


「木ノ花先生、黒影の隊員の写真、お持ちじゃないですか?」


「あ、ええ、集合写真が確かあったはず」


木ノ花先生はカバンから書類が入った封筒を取り出した。


陽菜は今度は本気でテンションが上がったようで、木ノ花先生の隣の席に移った。書類から木ノ花先生が集合写真を取り出すと、陽菜は食い入るように写真を見つめた。


陽菜のこの食いつきようは無理もなかった。


震災から十五年経ったが、大幅に減った人口は戻ることがなかった。


元々少子超高齢化社会に突入していた日本だったが、一連の災害で、若者が激減した。


今の俺らの周りにいるのは、父親や母親の年齢の人か高齢者ばかり。


少子化対策をしようとした時期もあったらしいが、食糧不足の問題もあり、子供が減ることは暗黙の了解になってしまった。


結果、子供の数が少ないこともあり、遠い昔に普及していた許婚が復活し、かつては当たり前だった自由恋愛というものはめっきり減ってしまった。


唯一、政府公認の男女のアイドルがいて、結婚するまでは彼らを見て疑似恋愛することが、今の俺らの青春になっていた。


昔は恋愛映画とか恋愛ドラマとかが流行していたらしいが、俺らはそれを知らなかった。


同年代の素敵な異性と出会っても、どうせ許婚がいるから、というあきらめが最初から働いていた。


もちろん、綺麗な子、可愛い子に会えばテンションは上がるが、それ以上でもそれ以下でもなかった。


だから陽菜を見ても俺は綺麗だとは思うが、それだけだし、陽菜が美青年の狭霧を見ても行動や言動に変化はなかった(今のところ。どう見ても俺に対する接し方と差はないし)。


……それにしても陽菜も狭霧もなんで黒影に入隊することにしたのだろう?


陽菜や狭霧であれば、政府公認のアイドルにもなれたはずだ。


驚くほど忙しいがそれに見合った高収入という話は聞いている。

しかも住む家も提供されるし、国費で警備の人もつくという。

まさにVIP待遇が待っている。


俺はそこで狭霧の立場を思い出した。


狭霧の父親は黒影の頭領だった。


黒影の頭領と言えば、エリート中のエリート。そして最強という称号が相応しい、まさにヒーロー的存在だ。


そこに憧れて黒影入隊を決意した…これは分かりやすい入隊動機だが、狭霧の場合はそんな単純な話にならない。


なぜなら父親は任務中に命を落としているからだ。


今の時代は高齢者が多いから、死というものは常に身近に感じられていた。


死と言うものが非日常ではなく、日常の存在であることは間違いない。


それであっても死んだのが自分の父親なら話は別ではないかと思った。


人は死ぬものという諦めに至ることはなく、深い悲しみの傷が癒えずに残る気がした。


父は任務中に命を落とした。父はとても無念だったと思う。この無念を晴らすべく、黒影入隊を決めた――狭霧はそんな理由で黒影を目指したのだろうか……。


それとも父親の死をすでに乗り越え、父の背中を追って黒影入隊を決めたのだろうか……?


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

初めての投稿でガチガチに緊張して作業しました。

不慣れなため至らないところがあるかもしれません。

どうか温かく見守っていただけると幸いです。

引き続きよろしくお願いします。

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