歓迎会
「どこから説明すればいいかな。蓮にはもう話したのだけど、装甲車の襲撃は窃盗団じゃない」
「え⁉」
「お待たせ。歓迎会の会場に行きましょう。会場と言っても、食堂なのだけど」
このタイミングで木ノ花先生が登場するとは。
陽菜は今、頭の中が疑問符でいっぱいのはずだ。よし、ここは。
俺は木ノ花先生に駆け寄り「もうお腹ペコペコです。歓迎会はすぐご飯食べられますかね?」と話しかけ、そのまま並んで歩き始めた。
これで陽菜と狭霧は話の続きができるはずだ。
俺がチラリと狭霧を見ると、狭霧が目で「ナイス!」と言っているのが伝わってきた。
◇
食堂についたが昼間と違い入口の扉は閉まっていて、そしてなんだか静かだった。
木ノ花先生が食堂の引き戸を両手で左右にえいっとあけると、どうも中は真っ黒だった。
本当に歓迎会の会場はここなのか?
そう思った瞬間、真っ黒と思われた食堂の奥の方から蛍のような明かりが次々と灯り始めた。
すると、そこには驚きの光景が広がっていた。
食堂の天井には満開の桜が咲き誇り、そこにぼんぼんが吊るされていた。
蛍の光のように見えたのはこのぼんぼんだった。
あったはずのテーブルや椅子はそこになく、代わりに沢山の小舟が浮いていた。そしてその小舟には卓を囲んで四~五人が座っていた。
いったい全体どうなっているんだ? まるで食堂全体が魔法にかかっているかのうようだった。
「第十三期黒影、天野狭霧、黒雷蓮、玉依陽菜、入隊、おめでとう」
そこにいた全員が俺たちに対する歓迎の言葉を一斉に叫んだ。
「よく来た新入隊員! さあ、こっちへ来て、思う存分楽しんでくれ!」
スポットライトの下にいたのは……歌舞伎役者のようなド派手な衣装の男性だった。そしてその声を合図に、祭のような音楽が大音量で流れ始めた。
「天津くん、気合い入っているわね。さぁ、みんな、楽しんで」
木ノ花先生にそう言われ、さっきのド派手な男性が天津頭領だとようやく気付いた。
「陽菜さん、こちらの船へどうぞ」
気づくとすぐそばに小舟が横付けされていた。そしてその船から立ち上がり、船から手を差し伸ばす、まるで平安貴族のような男性がいた。
「洩矢先輩⁉」
陽菜の言葉でようやく俺もこの端正な顔立ちの平安貴族の装束――狩衣の男性が洩矢先輩であることに気が付いた。
「揺れるから、僕の手をつかんで」
陽菜は洩矢先輩に言われるままに小舟に乗り込んだ。
「待っていたよ! 私の可愛い可愛い後輩、天野狭霧くん! ぼくは建御名 恵茉、えま先輩だよ。さあさあ、船に乗って!」
あれが父親からじゃじゃ馬と言われるえま先輩か。
えま先輩はよく通る明るい声をしていた。
肩までの髪は毛先がくるくる巻きで、頭には小さなシルクハットの髪飾り。
顔にはフェイスペインティングで♡のマーク。
そしてバレリーナが来ていそうなボリューム満点のスカートという服装で、まるでコンサート中の昔のアイドルみたいだった。
普通に可愛らしい女の子に見えるけど、服装はインパクトがあるな。でも……
えま先輩の横には歌舞伎役者のような天津頭領もいて、狭霧が乗り込もうとしている船はひときわ賑やかそうだった。
あれ、でも天津頭領に隠れるように座っている女の子は狭霧の方を見ようともせずうつ向いたままだ。
「えーと、君が黒雷蓮くん?」
ド派手な狭霧が乗る舟に目を奪われて気が付かなかったが、すぐそばに水兵のかっこをした赤毛の男の子がいた。
「はい、俺が黒雷蓮です」と返事をすると、その男の子はホッとした表情を浮かべ手を差し出した。
「蓮くんって呼ばせてもらうね。僕は火虞槌 暖。みんなからだんちゃんって呼ばれているから、だんちゃん、でもいいし、だん先輩でもいいし、好きな方で呼んでね」
見た目が男の子、という感じだったので油断していたが、ここに俺より年下はいない。
「だん先輩、よろしくお願いします」
俺がそう言ってだん先輩と握手すると、先輩はそのまま「はい、乗って」と、舟へ誘導してくれた。
俺の手をつかんだだん先輩の力は予想以上に力強く、鍛錬していることが伝わってきた。
「掘りごたつの作りになっているから、靴ははいたままで大丈夫だから、ここに座って」
だん先輩に言われるままに腰をおろした。
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今回の更新分で一癖も二癖もある黒影の仲間が続々登場します。
ぜひお楽しみください。




