本当の自分
ひるこがいるはずの場所に、見知らぬ女子の姿があった。
どことなく、神が顕現した時の奈美先輩に似ていた。
その女子は俺たちを見ると、満面の笑みを浮かべた。
「皆さん、私、本来の姿に戻れました!」
それはひるこだった。声も、別人だった。
ひるこは元々は神と同じ姿だった。ただ、手足がなく、その手足を黒い影で補おうとしたことで、どんどん黒い影と同化し、変貌していただけだったのだ。
このひるこの変化はすぐに広まり、皆が御祝に駆け付けた。
鈴野教官は、スポーツ科学を専攻し、スポーツ選手が怪我などで義足や義手を使って運動を続けることについて研究していた。そこで知り合いの技師に頼み、ひるこのために義足と義手を用意してくれた。
さらに、ひるこはもはや結界に触れても何の問題も起きない体になっていた。
ひるこが神と同格だったからこそ、黄泉の国の食べ物を絶ち、黒い影の血を体からなくすことで、本来の姿、本来の力を取り戻すことができたのだ。
この体の変化はもちろん、何より皆が喜んだのは、ひるこが善悪の判断ができるようになったことだった。そして思いやりの気持ちを持ち、自分のことだけではなく、他者についてひるこは考えられるようになっていた。
その証となったのは、ひるこが芽衣さんから文字を教わり、自分に関わった人達へ書いた手紙だった。
その手紙には自分がしてしまったことへの謝罪はもちろん、自分がしたことで苦しんだり迷惑をかけた人が沢山いたことを後悔しており、これからは心を入れ替え、自分と関わる人に恩返しをしたいことが綴られていた。
もちろん、癇癪もなくなり、ひるこが怒る姿をここに来てから見た人はいなかった。
◇
「皆さんのおかげで、私は本来の姿に戻ることができ、そして多くのことを学び、成長することができました。皆さんには感謝しても感謝しきれません。これからもこのご恩に、私の持つ知識と力で報いていきたいと思います」
ひるこのスピーチに拍手喝采が起きた。
狭霧や陽菜、芽衣さん、そして俺も力強く拍手を送った。
ひるこが元の姿に戻ってから一年が過ぎていた。
今日はひるこが生まれ変わった記念日、第二の誕生日として、盛大なお祝いが防衛本部の食堂で催されていた。
ひるこはこの防衛本部の医務室でスタッフとして働きながら、薬剤師の免許を取るために勉強をしていた。お祝いをしようという声は一緒に働くスタッフ、防衛本部の職員、そして黒影のメンバーから上がった。だが、それだけではなかった。
ひるこが治療を受けていた仮設建物は、その後ひるこが住み続けられるように、一戸建てに建て替えられていた。ひるこはその采配をしてくれたじっちゃまへ恩返しをするために、防衛本部へ出勤する前に、神社の雑務を手伝っていた。
そのため、神社の職員や神職者、もちろんじっちゃまもお祝いをしたいと声を挙げた。こうしてこのお祝いの会場には、とても沢山の人がひるこのために集まっていた。
皆、ひるこが起こした騒動で苦しんだはずだが、心を入れ替えたひるこの頑張りを日々目にしており、今となってはひるこはこの町の住人であり、仲間であり、友となっていた。
仕事が休みの日にはお年寄りの家を訪問し、話し相手になったり、ちょっとした雑用を手伝うというボランティア活動までひるこはしていた。そのため、誕生日の二次会は町の公民館で、ボランティア活動で知り合った人達を中心に行われることになっていた。それぐらい、ひるこは皆から慕われる存在になっていた。
「こんな日が来るなんて想像もつかなかったよねー」
陽菜の言葉に芽衣さんが頷いた。
「神社でも早朝からいろいろと手伝ってくれて、本当に助かっているようです。私が防衛本部の寮に入ってしまい、人手が減っていたので……。ありがたいことです」
「僕は道徳についてひるこに教えたけど、休みの日のボランティア活動はひるこ自身が考えてやっていること。かつてのひるこからは想像できないね。あの日、蓮が神を前にしてもひるまず、僕たちの気持ちを代弁してくれたおかげで今日があるんじゃないかな」
「おいおい、狭霧、それは褒めすぎだよ。あの時の俺は後先考えずに思わず口が動いていただけだから。一歩間違えたら何が起きていたか分からなかったからな。でもホント、良かった。このまま平和な日々が続くといいな」
「ふうーん。第一部隊はだいぶ平和ボケしているみたいね」
俺は聞き慣れない声に後ろを振り向いた。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
ひるこは劇的な変化を遂げました!
引き続きお楽しみください。




