心からの言葉
「僕は君に押し花を送った天野天十改め天野狭霧です。僕が君の腕を切り落としたことがきっかけで、ひるこ、君は復讐のためにやってはならないことに手を染めてしまった。でも君はそのことで自分が責められる理由を理解できていなんだね。なぜ君の行為が非難されるのか、その理由を僕は君が理解できるよう、ちゃんと説明しよう。なぜそれが駄目で、なぜこれが良いのか、僕はこれから君に教え続ける。君の両親は君が善悪の判断がつくという前提で叱っているが、君はその判断ができていないのだね。それが分かったからこそ、僕は今、これ以上君を責めはしない。必要なのは話すことだ。話をしよう、ひるこ」
すると陽菜も口を開いた。
「ひるこ、あなたは自分の容姿が親と違うことを気にして、親と同じようになろうと自分なりに努力したんだよね? でもね、それは方法が違っていたんだよ。誰かから奪わなくても、自分を良く見せる方法はいっぱいあるんだよ。変えられない自分の容姿を変える以外でも、やり方はあるんだよ。ひるこ、あなたは今の個性を生かす方がいいと思うんだ。私が送った衣装のデッサン、見てくれた? あれ、ひるこ、あなたにピッタリだと思うの。それで今日はあの服とこの狭霧が送った花でスペシャルなプレゼントを用意したよ。これをね、着てみて。そうすれば今あなたがしているその苦しい姿勢も変えることができるよ。ひるこ、あなたは私たちが言うところのⅤ字バランスの姿勢を今もしているんだよね。そんなことしないで、ありのままの自分でいられるよう、この服を着てみて」
陽菜の言葉を合図に、俺たちは持ってきた服と花冠をひるこの前に広げた。
ひるこは明らかに驚き、そして目を輝かせていた。
俺たちはチュニックの裾を持ち上げ、ここから頭を入れるように示した。
ひるこは体勢を変え、本体の頭をチュニックの中に入れた。
チュニックは見事にひるこの体にフィットしていた。
「さあ、この花冠を」
ひるこは花冠に顔を近づけ、その花の香りを感じ、うっとりとした顔になった。
俺たちは花冠を静かに持ち上げ、ひるこの頭にゆっくりと載せた。
これもうまい具合にひるこの頭に収まった。
「ひるこさん、とっても似合っていて、綺麗ですよ。ありのままのあなたでこんなにも綺麗になれるんですよ。そうできることをあなたは知らなかったのですね。きっとひるこさん、あなたが知らないことは沢山あると思います。あなたは文字も覚えたいのですよね。大丈夫。教えて差し上げます。なぜならみんな、あなたと友達になりたいと思っているからです。あなたの両親があなたを理解しなくても、友達はあなたを理解して助けたいと思っています。あなたが友達の大切さを学べば、自然とその友達に対しても何かしてあげたいという気持ちが沸き上がると思います。そうなれるように、これ以上敵対するのは止めて、仲良くしましょう。あ、私はあなたに猫のイラストの手紙を送った小笠原芽衣です」
芽衣さんがそう言うと、陽菜が慌てて自分の名前を告げた。
「陽菜は、春秋竜美改め玉依陽菜です。その服のデッサンを送ったのは私だよ~」
ひるこは「分かった」というように頷いた。
『……みんな、あり…が…とう。とても嬉しい…』
ひるこの目から涙があふれ、ぼたぼたとこぼれ落ちた。
五メートルほど離れていたが、それは滝のようで、広場に当たってはじけると、水しぶきが飛んできた。ひるこはしばらく声を出して泣いていたが、やがて涙が収まると、こう告げた。
『私はみんなと友達になる。みんなともっと話したい。自分が何を間違っていたのか、ちゃんと理解したい』
その言葉にその場にいた全員がほっとすると同時に、奈美先輩が泣き出した。
「ナギの馬鹿~。ナギが母親らしく威厳を持って、人間に示すがつくようにひるこを叱れっていうからその通りにしたら、私、完全に悪者じゃない~」
さっきまでの厳しい口調と違い、くだけて幼い子供のように泣きじゃくっていた。
「まあ、まあ、ナミ。落ち着いて。結果として上手くいったじゃないか」
凪先輩が奈美先輩の頭をよし、よし、と撫でた。
……もしかして、これがひるこの両親の本来の姿⁉
「コホン。とりあえず、これで一件落着でいいのかのう」
「そうみたいですね」
狭霧が頷いた。
「でも、ここからがスタートですよね。ひることの約束、果たしていかないとですし。それに僕たち全員、秘密、バラしちゃいましたよね……」
「そうじゃのう。今頃、熱田と天津が泡食って対応に追われている頃じゃろう。じゃが、いつまでも隠し通せることではないし、これでいろいろなことが加速して動き出すじゃろう。良いことじゃ」
こうしてひることの対話は円満に終わった。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
予想外の展開と結果になりましたが……。
引き続きお楽しみください。




