襲撃の理由
寮に着くと、木ノ花先生は「はい、甘いもの。疲れた時は糖質補給」といい、みんなに飴を一つずつくれた。そしてトイレの場所を教えると、「玄関ホールに十分後に集合ね」と伝え、足早に職員室へ向かった。
陽菜は「先生の飴、美味しい~」とご機嫌な様子で女子トイレへ向かった。
俺と狭霧も木ノ花先生にもらった飴を食べてみた。
木ノ花先生がくれた飴は優しい甘さで、そして口の中でホロリと溶けた。さっきアフタヌーンティーセットで甘いものは沢山食べたが、それらとは違う甘さで、不思議と力がみなぎるがした。
そういえば、一粒で三百メートルというキャッチコピーのお菓子が昔あったよな。
そんなことを思い出せるぐらい元気が回復していた。
元気が回復したらあの話だ。
玄関ホールのベンチに座ると、俺は早速狭霧に切り出した。
「狭霧、さっきの続きだけど」
「うん、僕もずっと話したかったよ」
「俺から質問してもいいか?」
「もちろん」
「狭霧はなんで窃盗団の襲撃が本当にあったのか、と、仙人爺さんに聞いたんだ?」
「窃盗団は、オーストラリアに集結した世界中の富豪が黄金の国ジパングの金を狙って送り込んだ、いわば泥棒だよね。手に入れたいのは金だ。そうなると装甲車を襲う必然性がないんだよ。もちろん、これは装甲車で金を運ぶことはない、という前提だけど。では装甲車に金はなくても襲撃するとしたら、どんな場合なのか。例えば装甲車に黒影隊員が乗っていると窃盗団が知っていた場合。金を盗もうとする度に邪魔をする黒影は、窃盗団にとって目の上のたんこぶだ。でももし、本気で黒影を倒そうと思っているなら、それこそミサイルを撃ち込むとかすればいいわけで、そうではない中途半端な攻撃は意味がないと思うんだ」
なるほど。そう言われるとその通りだ。
「では装甲車に熱田大臣が乗っていたら? 金山の採掘を統括する人物だ。もし亡き者にできれば、町も防衛本部も大混乱。その隙に金を盗み出すことが出来る。でも、それをしてしまうと、直接的に日本という国を敵に回すことになる。オーストラリア政府は自国に暮らす富裕層が何やらよろしくない企みを行っていると気付いているが、見てみぬふりをしている。いろいろ面倒だから。でも窃盗団が熱田大臣を亡き者にしたとなったら、オーストラリア政府も見過ごすことはできなくなる。そうなると事態はややこしくなるだけだから、窃盗団も実行するわけがない。そうなると、装甲車を襲う理由がまったく見つからないんだ」
「……!」
狭霧が同い年で同期であるとは思えなかった。
冷静に的確に状況を捉えた分析をここまでできるなんて……。
「蓮は僕の推理、どう思う?」
「ごめん、あまりにも素晴らしい分析で言葉を失っていた。まさにその通りだと思う」
「良かった……。でも、誰がなんのために装甲車を襲撃したのか、という謎がまだ解けないんだ」
そこへ陽菜が戻ってきた。
うん? どうしたんだ? トイレに向かっている時はご機嫌だったのに、今度はなんだか神妙な顔をしている……。
「陽菜、どうした?」
俺が声をかけると、陽菜は話すべきかどうか迷っているようだった。
「何か話しにくいことなら無理して話す必要はないよ。話すことで陽菜の気持ちが楽になるなら聞かせてほしい」
狭霧の言葉に陽菜は「確信はもてないのだけど」という前提で話始めた。
「装甲車を降りた後、かすかに香りがしたの。吹き抜けるような爽快さの中に甘さが漂う香り。それで今、トイレでその香りがまたしたの。あ、トイレの芳香剤の香りとかじゃないよ。残り香。その香りの持ち主が、私がトイレに行く少し前にそこにいて、残していった香り」
俺は陽菜が何を言おうとしているのかなんとなく見えてきた。
「装甲車に乗っていたのは陽菜たち三人と木ノ花先生、運転手さん。装甲車を降りた時に感じた香りはこの五人のものではなかったの。他に香りを感じるとしたら……」
「装甲車を襲った窃盗団……!」
俺の言葉に陽菜が頷いた。
「装甲車を降りた時に感じた香り。そしてこの寮のトイレで感じた香り。この二つの香りが一致していた。つまりこの寮に窃盗団が潜んでいると思ったわけだね、陽菜」
狭霧の言葉に陽菜は力強く頷いた。
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今回の更新分で一癖も二癖もある黒影の仲間が続々登場します。
ぜひお楽しみください。




