神の顕現
ひることの対話は十九時開始だった。十八時まで金山が稼働しているので、作業員や職員が帰った後、対話開始を予定していた。神社を出発するのは余裕をもって十八時。晩御飯は十七時以降いつでも食べられるように用意してくれていた。そして今は十六時半。
一つにつながりつつある花冠の長さを狭霧が計測していた。
俺はこれからつなげる予定の花冠の長さを計測した。
「必要な長さは十一メートル七十センチ。そしてつなげることができている花冠が十メートル九十二センチ。必要な花冠は残り七十八センチ。大丈夫だ、足りてる!」
その場にいたみんなが喜びの声を上げた。
「あとはつなげるだけだ」
当直の職員さんが左右から残りの花冠をつなげ、ついにすべてをつなげることができた。
「完成だ!」
狭霧の声にその場にいた全員が歓喜の声を挙げた。
◇
花冠が完成した後は、出発までの時間との戦いになった。
花冠作りで手は緑色に染まり、草の匂いもついていた。ひることの対話に備え、身を清めるために入浴も必要だった。後片付けは佐保先輩と安藤教官がやってくれることになったので、俺たちは風呂場に駆け込んだ。
一方夜間勤務があるだん先輩と当直の職員二名は、手を洗うとすぐ食堂へ向かった。仕事を終えた木ノ花先生もやってきていて、子供たちを一の鳥居まで見送ってくれた。そしてひるこに渡すチュニックと花冠も一の鳥居まで運んでおいてくれた。
手早く身支度を整え、食堂へ行くと、食べやすいようにと用意されていたカレーを食べ、集合場所である拝殿に早足で向かった。
拝殿が見えてきたとき、奈美先輩と凪先輩らしき姿も見えた。
なぜ「らしき姿」なのかというと、背丈からして奈美先輩と凪先輩と分かるのだが、服装も髪型も、何よりも離れていても感じ取れる気配がいつもと違っていた。これは明らかに神が顕現している。二人は依り代として神を顕現させることに成功していた。
奈美先輩の髪は長く、腰の上あたりで金細工の髪飾りでまとめられていた。眉毛の形もいつもと違い、目尻の紅色の化粧も見たことのないものだった。
口紅の引き方も今時とは違う感じだ。勾玉の首飾りや腕飾り、腰で結ばれた金細工の紐、金と朱色の刺繍が入った白い衣。その姿はとても神々しく、見ていると胸がいっぱいになり、涙があふれそうになった。
一方の凪先輩は髪を左右にわけ、それを金細工の髪留めで束ねていた。眉毛はきりっとして、眼光は鋭く、意思の強さを感じさせる顔つきになっていた。
勾玉の首飾り、腰に帯びた様々な石が光り輝く剣。金と銀の刺繍が施された白い衣をまとったその姿は勇ましく、力強さが感じられた。筋肉をつけたいと凪先輩は嘆いていたが、今は、筋肉隆々な様子が衣の膨らみ具合から感じられた。
これがひるこの両親である神が顕現した姿なのか……。
双子の先輩の変貌ぶりに驚いたのは俺だけではないようで、狭霧も陽菜も、そして芽衣さんも、二人の姿を目を大きく見開きガン見していた。
「おう、来たか。これから一の鳥居まで行く。一の鳥居にはヘリが来ているから、金山まで一飛びじゃ」
じっちゃまそう言うと拝殿を出て、階段を下りた。
そこには白馬が二頭用意されており、じっちゃまに続いて階段を下りた奈美先輩と凪先輩はそれぞれ白馬にまたがった。
「行くぞ」
じっちゃまに言われ、俺たちも階段を降りた。
白馬は神職者が誘導し、ゆっくり一の鳥居に向けて進みだした。
じっちゃまを先頭に、狭霧、俺、陽菜、芽衣さんの順で白馬の後を進んだ。
玉垣を抜けて驚いた。
数メートルおきに左右の参道に神職者が提灯を持って立っていた。
俺たちがその間を進むと、薄い霧が出てきて、提灯の明かりがぼんやりと浮かびあがった。
それは一の鳥居まで続いており、幻想的な雰囲気を作り出していた。
すると自然と厳かな気持ちになり、姿勢が真っすぐに伸び、歩き方さえ変わっていた。なんというか体が、自然にこの場にふさわしい動きになっていた。
一の鳥居に到着すると、そこにはヘリが二機到着していた。
じっちゃま、奈美先輩、凪先輩がまずヘリに乗り込み、出発した。俺たちはひるこに渡すチュニックと花冠をヘリにのせ、狭霧、俺、陽菜、芽衣さんと順番に乗り込み、金山へ向け出発した。
「みんな見て、すごく綺麗……」
陽菜が窓から地上を見てため息をついた。
神社の周囲は林になっていて、周辺に明るい建物はない。そのため、参道の左右で光る提灯の明かりが、綺麗に見えていた。京都の五山送り火を思い起こさせる、印象的な景色だった。
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次回更新は明日、祝日なので夜21時に7話公開です。
次回の更新タイトルは「緊張の対面」です。
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