夢なのか現実なのか
「……、その白髪のお爺さん、いつの間にか応接室にいて、ドーナツを食べて、湯飲みでお茶まで飲んでいたんだよ」
‼
白髪のお爺さん、ドーナツ、湯飲み……
霞が薄れ、その姿が俺の脳裏に浮かんだ。
「仙人爺さんのことか! いた、確かにいた。突然狭霧の横に現れた。何を話したのかはごめん、やっぱり思い出せないけど、最後に杖を持って立ち上がった」
「……! 良かった。思い出してくれて。そう、最後に杖を持って立ち上がって、そこに木ノ花先生が入ってきた。その後は……不思議な感覚だった。白髪のお爺さんは本当にさっきまでそこにいたのか。それとも夢だったのか? 僕はそんな感じだった。でも陽菜と蓮はあきらかにうたた寝から目覚めたって状態で……」
「そうなのか……。俺はてっきり、満腹になって居眠りしていたところを木ノ花先生に起こされたと思っていた。でも、蓮と俺は同じ爺さんの記憶を持っている。夢みたいだけど、あれは現実だったんだよ。そういえばあの仙人爺さん……」
思い出そうとする霞がかかる。
それでも必至に、俺はその霞の向こうの景色を見ようとする。
「杖を持つ前に、仙人爺さん、何か言っていなかったか。僥倖、僥倖、って」
「言っていたよ、蓮。何のことかさっぱりわからなかったけど。あの時、僕は声を出そうとしたけど、なかなか出すことができなくて。なんとか絞り出して『窃盗団の襲撃は本当にあったのか』って尋ねたんだ。そうしたら『この状況下でよく。すでにハツゲンがはじまっているとは、僥倖、僥倖』って言っていたんだよ、その白髪のお爺さんが」
「ハツゲンってなんのことなんだ……?」
「それは僕もわからない。ただ、『この状況下で』という言葉から、あの白髪のお爺さんがなんらかの方法で俺たちが普通ではない状況を作り出したんじゃないかと思っているよ。そうでなければ夢なのか現実なのか判然としない状態に僕たちが陥ることはないと思うんだ」
「なるほど……。狭霧、俺、だんだん思い出してきた。あの時の感覚。突然仙人爺さんが現れて、俺は驚いて体が動かないと思った。でもあれは俺たちが動けないように、仙人爺さんが何かしたんだよ。そう、あれはまるで金縛りにあったみたいだった。体が動かなくて……目だけ動かすことができた。隣に座っていた陽菜も俺と同じ状態だった」
「その感覚は僕も覚えているよ。完全に動かないわけではなく、体がものすごく重たくて、指一本動かすのさえ一苦労、みたいな状態だった。だからこそ、声を出すのも本当に大変だった……」
「一体あの爺さんは何者なんだ? 俺たちに何をしたんだ? 目的は?」
「そのすべてが不明だよ。ただ、僕らが持つ疑問に答えてくれたのは事実だ。窃盗団の襲撃が本当にあったのかについてはお茶を濁した感じだったけど……」
「蓮~、狭霧~、置いていくよ!」
すでにジープに乗り込んでいた陽菜が大声で俺たちを呼んだので、その話はそこまでとなった。
◇
ジープに乗り込んでからも、俺は蓮とさっきの話の続きをしたくて仕方なかった。
謎の仙人爺さんのことも気になるが、それ以上に気になることがあった。
蓮は、窃盗団の襲撃が本当にあったのか、と、仙人爺さんに聞いたという。ジープがひっくり返るのではという揺れが、窃盗団の襲撃ではないというのなら、誰がなんのためにあんなことをしたのか?
しかも奈美先輩や凪先輩、木ノ花先生、それどころか熱田大臣でさえ、あの襲撃を窃盗団の仕業だと思っているのに、蓮はなぜ窃盗団ではないと思ったのだろう?
蓮と話したかったが、同時に陽菜にもあの仙人爺さんのことを確認したかった。断片的に仙人爺さんの姿が浮かぶが、話した内容となると、やはり霞がかかって思い出せなかった。
陽菜は狭霧のように覚えているのだろうか……?
「蓮、さっきから真剣な顔で考え事しているみたいだけど、どうしたの~?」
陽菜の言葉に俺はぎくっとして固まってしまった。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
今回の更新分で一癖も二癖もある黒影の仲間が続々登場します。
ぜひお楽しみください。




