いつの間に!?
声がしたのは狭霧の右隣。
全身が硬直したが、目だけは動かせたので、ゆっくり狭霧の横を見た。
……誰もいない⁉
「戦闘スタイルというのは人それぞれ。その者がその服装であれば最大限の力を出せる、というのであれば、それはそれで良いのではないか。無理に周囲にあわせてパフォーマンスを落とさせる必要はない」
!
狭霧の横に、ものすごく小柄の老人が座っていた。
白髪に豊かに伸びたひげ、まるで仙人みたいだ。
‼
座っていたどころか、手には食べかけのドーナツ、あと湯飲みも置かれている。
いつの間に!
俺の隣に座る陽菜も驚きで身動きができないようだった。
「そして護衛の件じゃが、護衛はちゃんとついておった。おぬし達が防衛本部を出発した時からずっとな」
仙人爺さんはそう言って湯飲みのお茶を美味しそうに一口飲んだ。
「金山の塀は低いと感じたかもしれんが、問題はない。今となっては監視塔へ向かうための通路に過ぎん。重要なのは監視塔じゃ。監視塔は塀の倍以上の高さがあったじゃろう。それで事は足りている。監視したい場所が見えていれば問題ないのじゃ」
仙人爺さんは、話はここまでとばかりに残りのドーナツを頬ばると、手についた砂糖を払った。
「……せ、窃盗団の襲撃は……、本当にあったのですか?」
狭霧が絞り出すような声で尋ねた。
ソファから立ち上がりかけた仙人爺さんは、興味深そうに狭霧を眺めた。
「ふむ。この状況下でよく……。すでにハツゲンが始まっているとはのう、僥倖、僥倖」
そう言うとソファに立てかけていた杖をとり、伸びをしながら
「窃盗団の襲撃は本当にあったのか。? 窃盗団。はて窃盗団とはいかに……?」
まるで謎解きのような言葉を口にした。
「ちょっと、みんな、起きて」
木ノ花先生の大きな声に、俺は重たくなっていた瞼をゆっくり持ち上げた。
……?
さっきまで動かなかった体が動くようになり、俺は勢いよく立ち上がった。
立ち上がった瞬間、陽菜が俺にもたれていたことに気づいた。
陽菜は目をこすりながら右手をついて体を起こした。
狭霧は目を周囲に巡らせ、何かを探していた。
なんだか頭の中に靄がかかっているようにぼうっとする。
俺はそこでようやく仙人爺さんのことを思い出し、狭霧の隣を見たが、その姿はなかった。
「木ノ花先生、仙人みたいなお爺さんを見ませんでしたか?」
「……? 黒雷くん、寝ぼけている? 誰も見てないわよ。それよりみんなしゃんとして。これから熱田大臣に会うのよ」
‼
「ほら、陽菜、よだれふいて。黒雷くん、頬にクリームがついているわよ。天野くんは……大丈夫ね。うん? 大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です」
「じゃあ、行くわよ」
俺たちは早歩きで熱田大臣が待つ執務室へ向かった。
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