教官と二人の同期
「三人とも、飛行機に乗るのは初めてよね?」
俺の向かいの席に座る、第十三期入隊の黒影隊員を引率する教官、木ノ花 葵先生が、俺たちに声をかけた。
木ノ花先生は、きちんとお化粧をしたら相当綺麗になりそうなのに、本人は化粧には興味がないようだ。
化粧は眉墨と口紅を社会人としてかろうじて使っている程度。
胸元まである髪は毛先にワックスをつけて整えたという感じでこちらも無頓着。
ただ、服は今時珍しい洋装だった。
工場での量産が難しくなった今、昔と違い、服の主流は和装だ。
どうやら服に関してはこだわりがあるらしい。
……でもこれでバッチリお化粧されると近づきがたくなるから、これぐらいのバランスが丁度いいのかな。
「はい。生まれてこの方、京都以外には行ったことはありません。だから飛行機に乗るのは勿論初めてです。離陸の時はちょっと緊張しましたが、ジェットコースターより快適でした」
俺が答えると、隣に座る玉依 陽菜が身を乗り出すようにして、木ノ花先生に問いかけた。
「先生が着ている洋装はどこで買ったの~? 陽菜も先生みたいな服、着てみたいなー」
木ノ花先生とは、さっき空港で会ったばかりだった。
だが陽菜は、まるで同級生と話すような口ぶりで木ノ花先生に話しかけていた。
そういえば俺に対しても「私のことは陽菜って呼び捨てでいいよ。陽菜も蓮って呼ぶから」とフランクだった。
瞳の色も僕らとは違い青みががったグリーンだし、髪の色もブラウンががった金髪だ。
今の日本にはあまりいない外国人の血筋を引いていることは間違いない。これで性格がフランクではなかったら近寄りがたい美少女だっただろう。
同期である以上、一緒に過ごす時間は必然的に長くなる。
陽菜がざっくばらんな性格で助かった。
「玉依さんは洋装に興味があるの? 実は、今着ているこの服、昔の写真を見て自分で作ったのよ」
「えーっ、先生、すごーい‼ というか、先生、私のことは陽菜でいいよ。あと、陽菜に洋装の作り方、教えて~」
陽菜は末っ子なのかな。甘え上手だ。
「もちろん!と言いたいところだけど、それにはミシンが必要なのよね」
「ミシン……?」
「あれ、授業でミシン習っていない?」
「習ってないな~。多分、先生の頃とカリキュラム、違っていると思うヨ」
「あ、そっか。そうよね。今はとにかく人手不足だから……。実践的なものは社会に出て現場で習え、だもんね。昔は義務教育が九年間、高校が三年、大学が四年間あったのよ」
「え~~、それって最長十六年間も勉強しなきゃいけなかったってこと⁉」
陽菜が目を丸くした。
木ノ花先生は、そんな陽菜を見て微笑んだ後、陽菜の隣に座る天野 狭霧に声をかけた。
狭霧は席についてからずっと窓から空を見ていた。
「天野くんは飛行機、乗ったことある?」
名指しされた狭霧は窓から目を離し、木ノ花先生を見た。
狭霧は切れ長の目で、鼻筋も通っており、見るからに美青年だった。
狭霧にじっと見られた木ノ花先生は居心地が悪そうに目を伏せた。
木ノ花先生の反応は無理もなかった。
空港のロビーで狭霧を見た時、その長身とすらっとした体つきに俺だって思わず目を奪われた。そして顔を見た時、芸能人かモデルかと思ったぐらいだ。
ロビーにいた女性客も狭霧のことをチラチラ見ているのが分かった。
そうやって狭霧を見る人はソワソワした様子になるが、本人はいたって落ち着いていて、しかも堂々としていた。
とても同い年には思えなかった。
そんな感じだったので、最初は狭霧に話しかけていいものかと迷った。
だが、陽菜がフランクな態度でグイグイいくと、ちゃんと受け答えをし、笑顔をも見せた。
呼び捨てにすることにも同意し、実はとってもフレンドリーだった。
「飛行機は……これで二度目です」
「うわぁ、すごーい! 陽菜はこれが初めてだよ」
「え、どこ行ったの?」
陽菜と俺は驚いて狭霧を見た。
今のご時世、飛行機は量産できず、チケットも高い。昔のように飛行機に乗って旅行だとか出張をする人はほとんどいなかった。
「僕、東京で生まれたんだよ。でもすぐに祖父母に引き取られて、京都に移ったんだ」
「え~、じゃあ、初めて飛行機に乗ったのは赤ん坊の頃ってこと?」
「その通り。だから乗ったとはいえ、残念ながら記憶がないんだ。窓から見える景色を見たら、何か思い出すかな、と思ったけど、さっぱりだよ」
狭霧の言葉に俺と陽菜は笑ったが、木ノ花先生の表情は強張っていた。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
初めての投稿でガチガチに緊張して作業しました。
不慣れなため至らないところがあるかもしれません。
どうか温かく見守っていただけると幸いです。
引き続きよろしくお願いします。




