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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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束の間の休息

金山統括庁がある採掘本部エリアは、俺らのいる防衛本部よりもずっとずっと大きく、町と言われるのも納得だった。


採掘場や加工場で働いている人たちが暮らしているだけあって、低層ながらレンガ造りのマンションも沢山あったし、そうした人達が利用する商業施設も整っていた。


そんな中で、金山統括庁は存在感があった。防衛本部にもない、そして採掘本部でも唯一のコンクリビルで、周囲には警察官の姿もあった。


金山統括庁へ入館するためには、端末をかざしたり、金属探知機による確認、ボディチェックもあった。


それら手続きを済ませて中に入ると、コンクリの外観に反して、中は木材が使われた和風スタイルになっていた。


「みんな、お疲れ様でした。熱田大臣は執務室に既にいるそうよ。でもバタバタしているみたい。予定していた面会時間より、四十分ぐらい早く着いたから、ここで休憩しておいてね。お菓子と飲み物も届けるように伝えてあるから」


木ノ花先生は俺たちを応接室に案内すると、足早にどこかへ行ってしまった。


その木ノ花先生と入れ替わりで金山統括庁の職員の方が来て、ホテルで出るような豪華なお茶菓子セットを出してくれた。


「うわぁ、すごい! ホテルのアフタヌーンティーセットみたい。この甘~い香りもたまらない!」


陽菜の目がキラキラと輝いた。


「写真を撮りたいところだけど、駄目だよね。残念~」


そう言いながら、添えられたトングを持つと、取り皿に小さなケーキ、クッキー、丸いお菓子(後で聞いたらマカロンというらしい)などをどんどん取っていた。


自分の分を取っているのかと思ったら、俺と狭霧の分も取り分けてくれていた。


「では、いただきま~す」


陽菜の声を合図に俺たちは豪華なおやつを食べ始めた。


一緒に出された暖かい紅茶を飲むと、心底ホッとすることができた。


「……二人はさっきの襲撃、どう思ったかな?」


狭霧がティーカップとソーサーを持ち、俺たちを見た。


なんか狭霧、そーゆう姿、絵になるなぁ。


「もーーー、ホント、ビックリした。陽菜たち、黒影の一員って言っても丸腰だし、訓練も受けていないし、装甲車に乗っていたけど、守ってくれそうな人もいないし、ここで死ぬのかなぁって怖かった」


陽菜の率直な感想に俺も同感だった。


「俺も、入隊初日にこんな目に遭うとは思わなかった。でも陽菜が戦う気満々なのに勇気づけられた。っていうか射撃やっていたとか、戦闘力俺よりあると思う」


「え~、でも蓮だって柔道と空手やっていたなんてすごいじゃん!」


「まあ、うちの父親もじいちゃんも武道を極めた人だからな。息子の俺にもその技を継承したかったのだと思うよ。あと、狭霧が奈美先輩と凪先輩の心配をしつつ、監視塔に砲台があるとかまで見ていたことに感動したな」


「そうそう。よく観察しているなぁ~ってビックリしたよ~。そもそも監視塔についた時、木ノ花先生は『これが監視塔よ。交代制だけど長時間ここにいることになるから、食糧も沢山あるし、仮眠スペースやシャワールームもあるのよ』とは言っていたけど、窃盗団の襲撃に備えた武器についての説明はなかったよねー」


「確かに。結局、俺らってまだ窃盗団についての詳細を教えてもらってないし、訓練施設は見せてもらったけど、どんな風に戦うのか、とか、知らないんだよな」


俺の言葉に狭霧が「そうなんだよ」といつになく強い口調で同意を示した。


「僕は金剛お台場山に行ってからの出来事に、納得がいかないことが沢山あるんだ」


狭霧の真剣な眼差しに、陽菜と俺はおやつを食べる手を止めた。


「まず、金剛お台場山をなぜ周回する必要があったのかな? 任務として監視塔に詰めることがあるから見学しておく、なら、監視塔についたら奈美先輩と凪先輩の紹介をするより、実際に監視塔の中を見学するのが自然に思えないかい?」


「そうだな……。俺らが見学できないぐらい監視塔の中は狭かったのかな」


「うーん。ちゃんと掃除していないから汚くて見せられなかったとか?」


「……そういった可能性もあるかもしれない。でも遊びではないのだから、狭いとか汚いからなんて言っていられないと僕は思うのだけど……」


狭霧の追及は厳しい。


「そもそもあの塀は中途半端だよね。金山を守るためにしては高さが足りない。海から来る窃盗団を攻撃するためなら、攻撃のための装備が何もないのはおかしい。それに陽菜が言った通り、丸腰の僕たちを連れているのに、護衛もいなかったよね。僕らは政府の要人ではない。でも護衛が一人ぐらいついてもおかしくないと思わないかい?」


そう言われると確かに無防備だったと思う。


「それに奈美先輩と凪先輩の隊服。陽菜は気に入っていたみたいだけど、まるでコスプレイベントだ。あと……」


「うむ。手厳しい追及じゃが、わしは個性があっていいと思うぞ」


突然年配者の声がして、俺は固まった。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

引き続き更新していくので、よろしくお願いします。


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