俺たちにできること
「木ノ花先生、奈美先輩と凪先輩は大丈夫なのですか。二人が武器を所持していた様子はなかったし、監視塔は灯台みたいなつくりで砲台もなかった」
狭霧も俺と同じことを考えていたが、俺より先をいっていた。監視塔の装備までチェックしていたとは……。
「私、クレー射撃を子供の頃からやっていたので、銃があれば応戦できると思います」
悲鳴をあげ、震えていた陽菜が自分も戦うと申し出た。
「俺は祖父から柔道を、父から空手を子供の頃から習っています。もしすぐ近くまで敵が迫っているなら、近接戦なら役に立てるかもしれません」
陽菜の言葉に鼓舞された俺は、自分に何ができるかを必死で考え、口にしていた。
「僕は陽菜や蓮のような戦闘力はありません。でも、状況を分析し、どのように対処すればいいか、戦略を練るぐらいならできます」
狭霧の言葉に俺の胸はさらに熱くなった。
「……みんな、ありがとう。本当に、ありがとう」
木ノ花先生は噛み締めるようにそう言った。
「気持ちはとてもありがたく受け取るわ。ただ、安心して。奈美も凪も、ここへきて三年間、第一線で活躍しているの。二人の力を信じて」
そこで再び、車体が大きく揺れた。
みんな押し黙るしかなかった。
だが、次の瞬間、アラームが止まり、赤色灯の点滅も止まった。
そして、突然車内に設置されているモニターが起動した。
「テスト、テスト、見えていますか~?」
そこには奈美先輩の姿があった。
顔や服に土埃がついていたが、怪我をしている様子はなかった。
「この時間帯に襲撃はないはずなのですが……。いつも通らない装甲車が通ったから、窃盗団も気になったみたいですね。でもすでに排除したので安心してください」
「ふうーっ、間に合ったかな」
凪先輩が額の汗をぬぐいながら、奈美先輩の横に来た。
「ビックリさせちゃったよね。あらかじめ防ぐことができなくてごめん!」
凪先輩も奈美先輩同様土埃がついていたが、怪我はないようだ。
「二人ともありがとう。こちらは無事よ。新入隊員のみんなも、いざとなったら戦う意気込みがあるぐらい元気よ」
木ノ花先生が自分の端末を操作し、応答していた。
「わお。今年の新入隊員は頼もしいね」
凪先輩が笑顔を見せた。
「もうすぐゲートに着くわ。引き続きの警戒、よろしくね」
「了解」
奈美先輩と凪先輩は声を揃えて返事をすると、モニターが消えた。
その瞬間、俺たちは緊張の糸が切れたようで、車内の空気が緩んだ。みんなの力が抜けたように感じた。
「突然の事態なのに、冷静に対応してくれて……本当にみんな、ありがとうね」
木ノ花先生の言葉に俺たちは頷くことしかできなかった。
「加工工場の見学は後日行くことにして、このまま金山統括庁へ移動しましょう。そこで少し休憩ね」という木ノ花先生の提案に、異論をはさむ者はいなかった。
ゲートに戻ると、沢山の警備員が集まって、僕らを気遣って迎えてくれた。
すぐにジープを出せるよう、運転席で待機するように言われていた建御名さんも、ジープを降りて俺たちに駆け寄った。
監視塔はゲートと対角線上にあるので塔の姿は見えない。でもその方角で煙が上がったり、何か大きな音がすることもなかった。
襲撃はほんの一瞬で、そして奈美先輩と凪先輩はあっという間に撃退してくれたようだ。
俺たちは窃盗団と戦ったわけでもなく、怪我もない。何も問題ない。
俺は自分に活をいれた。
その様子を見ていた陽菜と狭霧も大きく頷いた。
陽菜と狭霧とは今日会ったばかりなのに、同じ黒影の同期というだけで、不思議なことに心が通い合っているようだった。
仲間に恵まれたな、俺。
「大丈夫ですか、皆さん!」
心配して駆け寄る建御名さんに、俺ら三人は「大丈夫ですよ」と笑顔になれるまで気持ちを立て直すことができていた。
それを見た木ノ花先生は少し安心したようだった。
「金山統括庁へ急ぎましょう」
俺たちが乗り込むと、建御名さんはすぐにジープを出発させた。
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