双子の黒影
装甲車が走り始めると、木ノ花先生は金剛お台場山の一日の金の採掘量、年間採掘量から始まり、金がどのように活用されているのか、工業利用でどんなものに加工されているのかなどを説明してくれた。
俺としては眠くなりそうな難しい内容だった。隣の陽菜もあくびをかみ殺しているようだった。
一方狭霧は「なぜ工業部品として金が使われるのですか?」とか「金の再生利用はどれぐらい進んでいますか?」などかなり踏み込んだ質問をし、木ノ花先生が答えにつまる場面もあった。
そうこうしていると装甲車が止まった。
あれ? 結構大きな金山だと思ったけど、もう広場の入口に戻ってきたのか?
そう思ったら違っていた。
「みんな、今、丁度入口から半周した地点に到着しました。ここに黒影の監視塔があります。この監視塔には二名の隊員が二十四時間体制で毎日詰めています。もちろん公休の時は別の隊員が詰めるけど、基本的にここは双子の隊員の持ち場です。ちょっと挨拶していきましょう。二人とも今夜の歓迎会には参加できないから」
そう言われて装甲車から降りると、すでに二人の隊員が迎えに来てくれていた。
「初めまして、新入隊員の皆さん。わたくしは第九期入隊の伊勢野 奈美、双子の姉です」
そう挨拶をしてくれた奈美先輩は、小顔でくりっとした瞳をしていて、リスのように可愛らしかった。
パツン前髪にバストトップまで伸びた真っすぐの髪が日本人形みたいだ。
だが、最後の一言で印象が変わった。
「十八歳になってお酒が飲めるようになってからハマリました。一升瓶は軽くいける口です。でも公休の前日にしか思いっきりお酒が飲めないのが残念です」
いくら愛くるしく微笑みながら言ったとしても、酒豪という印象が焼き付いた。
「初めまして。第九期入隊の伊勢野 凪、双子の弟です。ぼくの趣味は筋トレです。公休の日も非番の日も欠かさず鍛えているけど、なかなか筋肉がつかなくて……。安藤教官みたいにムキムキになりたいのに……」
双子ということで、凪先輩は奈美先輩と顔立ちがそっくりだ。奈美先輩と同じく髪が長かったら、見分けがつかないように思えた。
それなのに目指しているのがあの安藤教官……。
安藤教官は顔がサラリーマン風、でも体はムキムキマッチョ。もし凪先輩に筋肉がついてしまったら……。想像したくなかった。
それはさておき、この双子の先輩はとても十九歳には見えなかった。十歳のいとこぐらいに見える二人が黒影の第一線で活躍していることは驚きだった。
「奈美先輩、凪先輩、お二人の隊服、とっても素敵ですね。これって支給品ですか⁉」
陽菜はどうやら二人の隊服に夢中になっているようだった。
そういえば、任務中の隊員に会うのはこれが初めて。そして双子の先輩が着ている隊服は、クローゼットにあった隊服とは全然違っていた。
奈美先輩は巫女装束風なのだが、緋袴の丈が短く、脛の部分に脚絆、そして足元はブーツだった。
凪先輩は神主風だが、浅葱色の袴の脛から下の部分はロングブーツの中に入れられていた。恐らく動きやすさを考慮した結果なのだろう。
「まあ、陽菜さんは見る目があるわね。わたくし、お酒の次にファッションが好きなの。この隊服は……」
「奈美、私たちそろそろ行かないと」
話が長くなりそうと感じたのか、木ノ花先生がストップをかけた。
陽菜と奈美先輩は名残惜しそうな顔をしていたが「また今度ゆっくり話しましょうね」と堅く握手を交わした。そして装甲車が走り出すと手を振って見送ってくれた。
「木ノ花先生、隊服って……」
陽菜が隊服について木ノ花先生を質問責めしそうになった時、突然装甲車が大きく揺れた。
「きゃあああ」
陽菜が思わず悲鳴を上げた。
全員シートベルトを着用していたが、もしつけていなかったら転がっていたところだ。
「みんな、大丈夫⁉」
木ノ花先生がそう言った瞬間、アラームがなり、車内で赤色灯が点滅した。
と、同時にブレザーの内ポケットに入れていた端末が振動した。
みんなが端末を取り出そうとすると、木ノ花先生が制止した。
「窃盗団の襲撃よ。また大きく揺れるかもしれないから端末は……」
そう言っている間にまたも大きく揺れた。
装甲車がこんなに揺れる襲撃って――。
監視塔の奈美先輩と凪先輩は大丈夫なのだろうか?
俺たちと会っていた時、武器を装備しているようには見えなかった。
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