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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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胸がキュンキュンする話

駐車場に着くと、空港まで迎えに来てくれた運転主がジープでまた待ってくれていた。


俺たちが乗り込むと、ジープはすぐに発進した。


しばらく走ると木ノ花先生が運転手は建御名たけみな ひろしさんといい、お嬢さんが黒影の隊員であると明かした。


「洩矢先輩が言っていた、僕らの一期上の建御名先輩のお父さんということですか?」


狭霧の言葉に俺は「ああ、そうか」と洩矢先輩の言葉を思い出していた。


「正解よ、天野くん。さらに建御名さんは私と同じ、黒影の裏方を担当していたの。第一期入隊で。お嬢さん、建御名たけみな 恵茉えまさんが入隊する前は、金山統括庁の事務職員として勤務していたのよ」


そこで初めて建御名さんが口を開いた。


「お恥ずかしい話、恵茉はじゃじゃ馬というか、親である私でも手に負えない時があって……。黒影の皆さんに何か迷惑をかけないか心配で配置移動を申し出てしまいました。皆さんが入隊して、先輩意識を持って、少し落ち着いてくれるといいのですが……」


「大丈夫ですよ、建御名さん。翔くんもいますし」


「質問でーす。洩矢先輩と建御名先輩ってどういう関係なのですか~?」


陽菜の問いに建御名さんが答えてくれた。


「ああ、翔くんはうちの隣の家に住んでいて、恵茉は一人っ子だったので、子供の頃から翔くんのことを兄のように慕っていました。じゃじゃ馬の恵茉も翔くんと一緒の時はおとなしくて……。恵茉が黒影に入隊した時、周囲の人はみんな、わたしに会うために入隊したと思っていたようですが、それは違います。翔くんの背中を追って入隊したのですよ」


なるほど……。だがプールサイドでの洩矢先輩と木ノ花先生の会話から察するに、洩矢先輩が建御名先輩の尻に敷かれている感じだったが……。


「でも、最近は翔くんに対してもじゃじゃ馬っぷりが出ているようで、親としてはどうしたものやらで……」


やはり。


「まあまあ、建御名さん、そう肩を落とさないでください」


「許婚というわけではないんだ~」


陽菜の言葉に建御名さんが「ええ」と答えた後、自身の恋愛観を披露した。


「二人のことを見ていた双方の親の間で、許婚の話はもちろん出ました。でもわたし達夫婦は自由恋愛で結婚したもので、恵茉にも自分の気持ちに素直に生きてほしいと思いましてね。翔くんは非の打ち所がない青年で、恵茉には勿体ない相手。許婚の話を断るのは心苦しかったのですが、理解いただけました。それどころか翔くんなんて引く手あまたなのに未だに許婚がいないんです」


これはどう考えても洩矢先輩には意中の人がいるということでは……?


「翔くんが黒影に入隊してからは、近所でも見かけないため、結婚でもしてどこかで所帯を持ったと思われたのか、縁談の話も減ったそうです。それでもまだ許婚の相談は来るそうです。でもそれを全部断ってくれていて……。恵茉と翔くんが互いに異性として意識しあい、恋人同士になってくれればいいのですが、こればかりはどうにもこうにも」


なるほど。そういうことか。


「うわぁ~すごいお話聞けました。なんだかキュンキュンしちゃいました」


陽菜の目が♡マークになっている。


「あの容姿と性格で許婚なしとなると、東京ここの女性たちは洩矢先輩を放っておかないだろうな……」


俺の言葉に陽菜も狭霧も頷いた。


「翔くんは大人気よ~。この町のアイドルと言っても過言ではないわね。と、そろそろ到着ね」


木ノ花先生の言葉に、窓から外の様子を見ると、遠くに金山の入口が見え、手前は大きな広場のようになっていた。


建御名さんの話に聞き入っている間に金山に到着したようだ。


「今から装甲車に乗り換えて、金剛お台場山の周囲をぐるりと囲っている塀の上を一周するわね」


金山前の広場の入口には警備員が何人かいて、詰め所があったが、建物はこの詰め所だけだった。その背後にはトラックが何台も止まっていた。採掘した金を加工場まで運ぶトラックだ。


「さあ、みんな降りて」


車から降りると、あらためて見上げるほどの大きさの金山に圧倒された。


これがほぼ全部金なのか……。


狭霧は金山だけではなく、周囲をくまなく観察していた。


俺と目が合うと狭霧は寂し気な笑みを浮かべた。


「やっぱり赤ん坊の頃だと、景色のことなんか覚えていないみたいだ」


……そうか、狭霧は飛行機でも窓の外を見ていた。記憶を探しているんだな。それは本当に見たことがある景色と確認したいわけではなく、そこにいたであろう人の姿を。父親の姿を。


「天野くん、黒雷くん、さあ、早く乗って」


木ノ花先生に呼ばれると、「行こうか」と狭霧がほほ笑んだ。


「うわぁ、なんかごっつい車~。男の汗の香りがする~」


陽菜は初めて乗る装甲車にはしゃいでいた。


「では出発するわよ」


装甲車には別の運転手がいて、建御名さんは手を振って俺たちを見送ってくれた。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

引き続き更新していくので、よろしくお願いします。

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