超えてはいけない一線
「天野くん、四尊は超えてはいけない一線をもう何度も超えてしまっているんだ」
「え……?」
「廃墟、休憩所、防衛本部に現れた黒い影、あれは黒い影ではなく、悪霊だった。そう、影の血が浸食した幽霊だった。そしてその影の血はどこから現れたのか? それは四尊からだ」
「……!」
俺は夜見先輩犯人説を自分で立てていたのに、改めて天津頭領から夜見先輩が犯人だと告げられ、驚きを隠すことができなかった。
やはり心のどこかで、夜見先輩は黒影なのだから、まさか裏切ることはない、という思いがあったのだろう。
「時間がないので一切疑問を持たずに事実だけを聞いてほしい。四尊夜見は長いこと防衛本部の監視下にあった。とはいっても実際に監視していたのは、陰陽頭の式神だ。四尊は隠密行動に長けており、監視者である式神を何度も煙に巻くことがあり、また時には式神が失踪することもあった。だが今回、防衛本部でぼろが出た。君たちが神社にいる時、防衛本部では黒い影が出現した。四尊を監視していた式神はこの黒い影の出現の経緯を目撃していた」
夜見先輩を監視していたのは陰陽頭の式神だったのか……!
「四尊は薬草を摘むという名目で廃墟に出向いていたが、実際は使役できそうな霊を手に入れていた。そうしているとバレないように自分に憑依させて。そしてあの日、防衛本部で四尊は霊に影の血を浸食させていた。つまり、悪霊を生み出した」
霊を自分に憑依させる――そんな恐ろしいことも夜見先輩はしていたのか……。
「影の血と分からないように巧妙に隠されていたが、四尊の脳には影の血が潜んでいた。MRI検査で見つかっていた謎の塊、それは本当は影の血だった。四尊はそれが影の血と知りながら、どうやら黙っていたようだ。そして廃墟、休憩所、防衛本部に、黒い影……悪霊が現れることを許した。そしてこの神社に現れた巨大蛇型の黒い影、一般人三人に浸食していた影の血、これらに四尊が関係していた可能性がきわめて高い」
監視者である式神より得た情報から、じっちゃまは夜見先輩が怪しいと感じていた。だから狭霧や俺が夜見先輩に近づかないよう、あえて「夜見が何か隠しているなどと疑い、夜見に近づく必要はないぞ」と言ったのかもしれない。
「四尊は自身の脳に潜んでいた影の血が逃走する手助けをした。影の血の逃走のために、防衛本部に悪霊……黒い影が出現したと思わせた。そのうえ、一部始終を目撃していた監視者である式神に重傷を負わせた。式神が九死に一生を得て帰還し、陰陽頭に報告ができたのは奇跡だった。そして今回、須虞那医師を切りつけた。……もう、仲間だったのだからと庇う余地はない」
天津頭領は落ち着いた声で話していたが、その目が、瞳が、怒りで燃えていることが伝わってきた。
「四尊が逃した影の血の行方は分かっていないが、その後坑道で黄泉の国の入口が開いた。偶然だったかもしれないし、計画的なものだったかもしれない。計画されたものであれば、黄泉の国の軍勢にまぎれ、逃れた影の血は黄泉の国に戻ったのかもしれない。さらにこの影の血と四尊が今もつながっているのかも分からない。だからこそ、もしもを考え、備える必要がある。それにこうなっても四尊は黒影。戦いの術を知っているし、隠密行動にも長けている。もし単独で動くとしても手を緩めるわけにはいかない」
天津頭領はそう言うと俺たちに告げた。
「君たちはまだ正規の隊員ではない。対人戦の武器の支給もされていないし、戦い方もまだ訓練していない。ハナノコの緊急通達には、黒影隊員はBプランで確保、と書かれていただろう。あれは対人戦での確保を意味している。刀や弓を使うのではなく、警棒やゴム弾を使い確保するということだ。さあ、神社の職員と一緒にひとまず避難をするように」
天野頭領が「頼もうー」と声をあげると、拝殿の角で控えていた、さっきとは別の警備の神職者が俺たちのそばに来た。
「すまないが、彼らを他の職員と一緒に避難させてもらえないか」
「承知いたしました」
俺と狭霧はここに留まって戦いたかったが、確かに対人戦については何も学んでいない。
仕方なく俺たちは神職者の後をついて歩き出した。
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