雷印(らいいん)
周囲に見える雲のような景色、これは神探しの時にも見た光景だ。
―俺の三つの試練によく応えた。
すぐそばに雷神がいた。
俺は上半身を起こした。
―試練を超えながら、俺の権能もいくつか習得した。だが足りない。俺の権能による力はまだいくつかある。それを今から教える。
雷神はそう言うと、様々な雷の力を俺に示した。
すごい。これだけの技があれば、どんな敵、どんな場面でも対応できる……。
―これぐらいで良いだろう。通常の戦いであれば十分。
雷神はそう言うと俺の手をとった。
―俺とお前の間に雷印を刻む。
俺の右手にビリっと一瞬電流が走り、皮膚が焦げる匂いがした。
だが痛みは一瞬で収まり、俺の右手の甲にはZを斜めにした、雷マークが刻印されていた。
―この雷印に触れるか、雷印に神経を集中させ、俺を呼べ。
そうすればお前は神降ろしの儀式なくして俺の権能を一時的に使うことが可能となる。
「ありがとうございます」
すると雷神は俺の頭に手をのせ、その長い指を俺の髪に絡めた。
―よく乗り越えたな。お前はもう、黒い影を見ても、怖れを感じることはない。
そう言うと、俺の頭から手を離した。
その瞬間、俺は自分の頬と腕、腰、そして足に冷たい床を感じた。
目線の先にはじっちゃまの正座した背中が見え、祈祷の声が聞こえた。
俺は手をついて、上半身をゆっくり起こした。
気配を察知したじっちゃまが、祈祷の言葉を唱えながら俺の方を見た。
じっちゃまは俺と目が合うと静かに頷き、祈祷の言葉を最後まで唱え、最後は丁寧に座礼をして、俺のそばにやってきた。
「どうじゃった」
「はい。うまくいきました」
「よし。よくやった」
じっちゃまそう言うと、座椅子を持ってきてくれた。
俺は立ち上がろうとしたが、下半身にうまく力が入らず、そのまま床に転がってしまった。
「無理をするでない。神降ろしの直後はみんな動けなくて借りてきた猫のようにおとなしくしている。上半身を起こしていたのはおぬしが初めてじゃ。立ち上がるなんてまだ無理じゃぞ」
そう言うと、じっちゃまは両腕を俺の脇の下にいれ、「よっこらせい」と掛け声をかけながら俺をひきずり、座椅子にのせた。それから背もたれを少し倒してくれたので、とても楽になった。
「今、お茶をいれるからのう」
じっちゃまは神探しの時と同じように、お茶を入れてくれた。
手の力は入るので、俺は湯飲みを受け取り、ゆっくり口をつけた。
……美味しい。体に染みる。
「で、どんな感じじゃった?」
俺はじっちゃまに雷神から与えられた三つの試練、それをどう乗り越えたかを話した。そして今後は雷印を使い、彼の権能を使えるようになったことを伝えた。
「ほう、これは……」
じっちゃまは俺の右手の刻印をとても珍しそうに見た。
そして右手の人差し指と中指を雷印に近づけ、驚いた顔を見せた。
「うむ。これはとても珍しいケースじゃ。この雷印は、これ自体に神気がある。つまり、この雷印に触れれば、黒い影はもうそれだけで消失する」
じっちゃまはそう言い、雷印のある右の腕、肩、胸、脇腹に二本指を近づけ、思わず唸った。
「神気が雷印を中心に、どうやら体全体に流れているようじゃ」
じっちゃま俺の全身を調べた。
「間違いない。雷印から一番離れた左足の小指あたりは少し弱いが、それでも、全身が神気で包まれている。もはや黒い影も影の血も蓮、おぬしに触れることはできない」
「……本当ですか⁉」
「うぬ。まさかと思ったがよっぽど強い縁がおぬしと雷神との間であるのじゃのう。この雷印はなんというか、雷神とおぬしが血の通った状態で繋がっている証と言える。常時この雷印に神気が流れ続けている。奇跡じゃな」
「先日坑道に現れた黄泉の国の軍勢と狭霧が戦った様子を防犯カメラの映像で見ました。狭霧が剣を構えると、何かオーラのようなものが出るのが見えて、だん先輩が神気だって言っていました。それでその神気を感じた黄泉の国の軍勢は後退しました。俺もそんな感じですか?」
「うむ。そうじゃのう……。狭霧の場合は剣を構えたことで、それまで狭霧の中で収まっていた神気が、オーラのような形で現れ、黄泉の国の軍勢は驚いて後退したんじゃろうな。つまり狭霧の場合は普段は神気が出ていないが、いざとなると、神気が全開になる。神憑り状態で神気を最大限発揮するということは、もう神がそこにいるも同然、黄泉の国の軍勢では相手をできんじゃろうな」
「やっぱり狭霧の神懸りはすごいですね……」
「比較するものではないのじゃが、言ってみれば狭霧の神懸りは戦闘型だ。対して蓮、おぬしの雷印は防御型じゃ。全開が出せる狭霧に比べれば、その出力は弱い。だが、なにせ寝ている間もおぬしはその雷印で守られているからのう。そう言った意味では翔のケースに近いのかもしれんのう」
洩矢先輩のそばに寄りそう好々爺姿の神……。
「洩矢先輩も守護神がいることで、黄泉の国の軍勢や影の血は近づけない感じですか?」
「そういうことじゃ」
じっちゃまはそう言った後、目を細めて俺を見た。
「……もしやと思うが蓮、おぬし、もう立てるのでは?」
じっちゃまの言葉に俺は足に力を入れると、さっきとは全然違い、ちゃんと力が入った。
俺はそのまま座椅子から立ち上がった。
「立てました、普通に」
じっちゃまはうん、うんという感じで頷いた。
「それも雷印から全身を巡る神気のおかげじゃな。普通じゃったらあと四、五十分は借りてきた猫じゃ。まあ、蓮、おぬしの場合は、元々体力にも恵まれているようじゃし、そのせいもあると思うが……。いやはや、狭霧と言い、おぬしといい、いろいろと規格外じゃわ」
じっちゃまそう言ってかっかっかと笑った。
「動けるならこれで神降ろしは終了じゃ」
こうして俺の神降ろしは無事終了した。
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