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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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イケメンより和菓子

「彼は教官じゃなくて、公休中の黒影の隊員よ。洩矢もれや かけるくん」


「第十期入隊の方ですね」


「……! そう。そう、だったと思うわ……」


木ノ花先生がたじろくのも仕方なかった。説明した本人さえうろ覚えの情報を狭霧は覚えていたのだから。


木ノ花先生がオリエンテーションで紹介してくれた歴代の黒影隊員は、時間も限られているということで、任務で前線に立つ隊員の中でも何らかの実績や功績を持つ隊員だけだった。


それでもその数は相当だ。しかも顔写真などもなく、文字だけ。名前を読み上げられない隊員もいた。


だから名前を聞いても、さっき聞いたかな……?という反応が通常だろう。


だが狭霧は第何期入隊というところまでちゃんと覚えていた。


裏方も含めた全黒影隊員の名前は、端末に保存されたレジュメに記載されている。きっと狭霧は時間を見つけてすべてに目を通し、覚えてしまいそうだ。


「せっかくだから会いに行きましょうか。どうやら泳ぎは終わったみたいだし。新入隊員は歓迎会で現隊員に紹介するのがお決まりだけど、もう頭領にも会っちゃってるしねー」


木ノ花先生はそう言うと、プールサイドに続くガラスの扉を開け、中に入った。


「翔くん、今、話しかけても大丈夫?」


すると首にタオルをかけた引き締まった体の洩矢先輩がこちらを振り返った。


「ええ、いいですよ」


心地よい声で応じると、洩矢先輩はゴーグルを外し、帽子をとった。


「……!」


よく鍛えられた体とは裏腹に、洩矢先輩は端正な顔立ちで、優しい眼差しをしていた。微笑を浮かべ、俺たちを見つめるその澄んだ瞳に吸い込まれそうだった。


「今、新入隊員と施設見学をしているの。歓迎会前だけど翔くんを見つけたから、紹介しちゃおうかな~と思って」


洩矢先輩はニッコリと輝くような笑顔を見せた。


「そうなのですね。それは光栄です。でも私が先に新入隊員と会っていたと知ったら、建御名たけみなに怒られそうだな」


「ああ、えま…! 後輩が初めてできるって、かなり前から楽しみにしていたわね。ここで会ったことは内緒よ」


木ノ花先生はそういうと俺たちの方を振り返り、「じゃあ、自己紹介」と言った。


俺たちが自己紹介をすると、洩矢先輩も自己紹介をしてくれた。


「私は第十期入隊の洩矢翔です。水の中にいると気持ちが落ち着くので公休の日はプールにいることが多いですね。あと和菓子作りが趣味で、プールで泳いだ後に、朝作った和菓子を食べるのが一番の楽しみです」


そう言って柔らかい笑みを浮かべた。


「あの、陽菜も洩矢先輩の和菓子、食べてみたいです!」


イケメンを見てメロメロになるのかと思いきや、陽菜は花よりだんごだったようで、和菓子の方に魅了されていた。


「ええ。ぜひ。陽菜さんだけでなく、蓮くんも狭霧くんも、みんなで食べに来てくださいね」


洩矢さんはみんなに対して包み込むような優しさを見せてくれた。


なんというのだろう、すべての人に注がれる優しい眼差しはまるで菩薩のようだ。


「それじゃ次に行くわよ」


木ノ花先生の言葉に我に帰ると、俺たちは次の施設へ向けて移動した。



木ノ花先生はせっかくだからと食堂の裏手にある畑と家畜小屋を見せてくれた。


畑も家畜小屋も想像以上に大きくて驚いた。近くまで行かなかったが、沢山のスタッフが作業をしており、その中に天津頭領の姿も見えた。


「倉庫は必要な時に行けばいいから、次は採掘本部方面ね。金剛お台場山を見て、加工場を見て、金山統括庁がラスト。その時間なら熱田大臣も戻っているはずだから」


「熱田大臣にも会えるんだ……」


木ノ花先生の後ろを歩きながら思わずつぶやいてしまった。


「熱田大臣……というか金山統括庁自体、公開されている情報が少ないから貴重な機会になりそうだね」


狭霧は興味津々という面持ちだった。


「あ、駐車場に行くついでに医務室も覗いてみる?」


前を歩く木ノ花先生が医務室の前で立ち止まった。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

コツコツ更新していくので、引き続きよろしくお願いします。

次回更新のタイトルは「女医」です。ぜひご覧ください。

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