なるほど
「黒い影は自然の五つの要素からその体を形成しています。水、火、風、土、闇。戦闘時、私はどの要素で構成されているか見るのですが、幽霊はそのどれでもありません。葦原の中つ国において幽霊は無なのです。無の状態の幽霊が黄泉の国に行き、黄泉の国の食べ物を口にすることで、はじめて無から五つの要素のいずれかを得ることになります。その要素が体を満たすことで、正真正銘の黄泉の国の住人となると考えられています。実験をしたわけではないので、机上の空論かもしれませんが」
狭霧と縁のある神が言っていた虚ろの体に通った血を、ひまり先輩は戦闘時に見ているんだ。
影の血はドロドロした黒いタールのようにしか俺には見えないけど、ひまり先輩の目にはそれが水であったり、土であったり、闇に見えるんだ!
「影の血が幽霊に浸食するということは、何もない無に浸食することになる。その状態を戦闘時の分析モードで見ると、無の中に影の血が見え、それは黒い影に見えるのですね」
狭霧が目を輝かせてひまり先輩を見た。
「その通りです」
狭霧ナイス! ひまり先輩の分析モードで悪霊を見ると、それは黒い影に見えるんだ!
「幽霊に影の血が浸食した状態を、実際に見たことはあるのですか?」
俺の問いにひまり先輩は頷いた。
「一度だけ。過去に坑道で殺傷事件が起きました。作業員同士が現場で喧嘩となり、殴られた相手が倒れました。その際、壁に頭をぶつけ、打ちどころが悪かったようで、その場で亡くなりました。ほかの作業員は驚いて逃げ出したのですが、殴った当人はそれでも怒りが収まらず、採掘で使う道具を、手あたり次第に周囲に投げつけたのです。すると運悪く、黄泉の国の入口が開いてしまった。そこへ黒影の隊員が駆け付け、黒い影と戦闘になりました。その際、影の血が亡くなった作業員の幽霊に浸食しました。私はまだ任務についたばかりでしたが、その場にかけつけた隊員の一人でした。その結果、私はそれを見ることとなりました」
「なるほど……。偶然が重なり、見ることができたわけですね」
狭霧の言葉にひまり先輩は頷いた。
「浸食されていく過程が見えたので、影の血が幽霊に浸食した、と分かりました。もし、すでに影の血に浸食されていた幽霊をみて、それが通常の黒い影なのか、浸食された幽霊なのか、戦闘時の分析モードで見て判別がつくのかと言われると……試したことがないので分からないです」
「廃墟に現れた手型の黒い影、休憩所に現れた黒い影、ともにどこから現れたのか不明でした。黄泉の国の入口も見つかりませんでした。ということは、影の血に浸食された幽霊、という可能性も……?」
ひまり先輩は狭霧の言葉に「なるほど」と言い、俺たちを見た。
「黄泉の国の入口がないのに現れた黒い影、と私たちは考えていました。でもそれは黒い影ではなく、影の血が浸食した幽霊だった……。確かに黒い影が現れた方角は防衛本部方面、そしてその背後にあるのは廃墟。まだ沢山の幽霊がいますね。黄泉の国の神もしくは同格と思われる黒い影以外の襲撃は幽霊を使ったもの……」
ひまり先輩は立ち上がると
「私はちょっと連絡してくるので、皆さんは食事の片付けが終わったら、蓮くんは清めの沐浴を、陽菜さんと狭霧くんは戦闘服に着替えてここに戻ってきてください」
そう言うとトレーを返却し、社務所の方へ行ってしまった。
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