しゃれにならない出来事
思いがけず夜見先輩の名前が出て、俺たちは三人は自然とアイコンタクトをとっていた。
「夜見……先輩、何かあったんですか?」
「あれ、黒雷くん、知らないの? あ、そうか、ずっとこっち(神社)にいたもんね。夜見くんさー、なんかおかしくなっちゃんだよね」
「おかしくなった?」
「うん。なんか独り言をブツブツ始めて、どうしたのかと思っていたら、時を同じくして、なんと防衛本部に黒い影が出現したんだ。みんなびっくり。しかも夜見くんその黒い影に思いっきり触れちゃったから少し若返っちゃったし」
聞いていた俺たち三人は衝撃で、陽菜は箸から餃子を落とし、狭霧はむせて咳き込んだ。
「ちょ、俺たちいない間にすごいこと起きていたんですね」
「黒雷くーん、すごいことは君たちの方で起きてたでしょ。こっちのなんてそれに比べたらちっちゃい話だよ」
水を飲んでようやく落ち着いた狭霧が、コップを置きながら口を開いた。
「医務室で夜見先輩に似た少年を見かけましたが、それ、本人だったんですね……」
「多分、そうだと思う。その日以降、医務室から出てこないんだよね、夜見くん」
阿曇先輩はとてもあっけらかんとしていた。
「その、防衛本部に黒い影が現れたのはいつなんですか~?」
陽菜が尋ねると、阿曇先輩は即答した。
「昨日の雨降ろしが終わった直後かな。雨降ろしで身を隠していた黒い影が、終わったと同時に逃げ出すみたいな感じだった」
雨降ろしが終わった直後……俺と狭霧はじっちゃまの趣味部屋にいた頃か。
「俺たち、その日の夕方に防衛本部に荷物を取りに戻ったのですが、そんな騒動があった感じはどこにもなかったですよ」
「そりゃそうだよ。防衛本部の敷地内で黒い影が出た、なんてしゃれにならない。まるで内部で手引きでもしたんじゃないかって変な噂が立っちゃう。迅速かつ何事もなかったかのように対処していたよ」
「そうなんですね……」
「それにその黒い影、町へ向かう道路の結界にハマったらしく、動けなくなっているところを浄化されたんだ。結界に触れてもすぐに浄化されないぐらい強いなら、そのまま結界を破壊して、結界外へ行けばいいのに……」
「いやいやいや、阿曇先輩、結界外に出ちゃダメでしょう」
俺のツッコミに阿曇先輩は「ああ、そっか」と言い
「とにかくなんだか間抜けな黒い影だったから、なんのためにここに現れたんだ、ってみんな意味不明って感じだったよ」
阿曇先輩はだん先輩とはまた違った感じで話しやすかった。なんというか同級生、友達に近い感覚で話すことができた。
「……あのー、黄泉の国の入口が防衛本部内に出現したんですか~?」
陽菜が聞くと阿曇先輩は「うーん」と首を傾げた。
「防衛本部に黄泉の国の入口があったら驚きだ。どこを掘ったら黄泉の国の入口につながったんだよ!っていうかなんで掘ったんだよ!って大騒ぎだろうね。さすがにそれはない、ない、だよ」
「ですよね」と狭霧も俺も陽菜も笑うしかなかった。
阿曇先輩は「結局さ」と言ってこう続けた。
「ひまり先輩でも分からなかったんだ。出現した時にひまり先輩はその場にいなくて、浄化した後に呼ばれて現場を検分したけど、どこの方角から来たのかさえも分からなかった。まさに何もない空間に突然出現したような感じだったらしいんだ」
それを聞いた狭霧は俺と陽菜を見た。
「休憩所に現れた黒い影は防衛本部方面から現れたと聞いています。巨大蛇型の黒い影も町の入口の結界から来たということは、防衛本部方面から来たとも考えられますよね。となると、今回防衛本部に現れた黒い影を含めた三体は、出所が同じなのではないでしょうか? つまり黄泉の国の入口とは違う方法で現れたのでは……」
「狭霧、俺もそう思う。……阿曇先輩、黒い影は黄泉の国の入口以外の方法で、こっちの世界に現れることはできないのですか?」
俺の問いに阿曇先輩は即答した。
「うん、それはできない。ただ、黒い影の血は、本体の黒い影が消失しても、人間の体に浸食していれば、そのままその人間の中で生き続けることができる。でも影の血ができることってせいぜい浸食した人間の体を操ることぐらいで、黒い影を呼び出すとかはできないと思う」
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阿曇先輩から思わぬ情報を得た蓮たちですが……。
引き続きお楽しみください。




