その時何が起きたか
「最前線の様子がおかしいです。あ、巨大な岩を持った黒い影が四尊夜見に迫っています」
建御名が報告すると春秋先輩が「前線へ出ます。後は頼みます」と駆け出していた。
止める間なんてなかった。
「一人で突っ込むなんて無謀だ。僕が春秋さんを支援します」
鹿島は走り出しながらそう叫んだ。
残された隊員は「あいつら無茶しやがって」と言いつつも、仲間のための必死の援護を続けた。
建御名は双眼鏡で春秋先輩と鹿島の姿を追った。
春秋先輩は走りながら三本の矢を放つという神業を繰り広げながら、後方から彼女を追う鹿島の投石の助けを得て、最前線に向かい駆け抜けていた。
「おい、矢を」
「はい」
建御名は首から下げていた双眼鏡から手を放し、矢を手に取った。
しばらく補給業務を行い、落ち着いたところで再び、双眼鏡で前線の様子を見た。
「!」
建御名が補給業務をしている間に封印の桃の実は四か所すべてに置かれていた。
「黄泉の国の入口の封印が完了しました」
この報告にその場にいた隊員からどよめきが起きた。
だが、敵はまだまだ沢山いた。
「黒い影の増援は防げましたが、いまだ、黄泉の国の軍勢は多数」
建御名が引き続き報告すると、「弾薬をくれ」「矢を頼む」と声がかかり、建御名は再び補給業務を行った。
そして双眼鏡で再び前線の様子を見ると……。
近距離戦を得意としない春秋先輩の周囲に黒い影が多数迫っていた。
春秋先輩は弓を第一武器にしていたが、近距離戦に備え、鉈を武器に戦う術を身に着けていた。だが、それは少人数の近距離戦向きで、あの数に囲まれては……。
そこに助けに入ったのが鹿島だった。
彼も投石の他にこん棒を使った近距離戦の武器を所持しており、それで春秋先輩に迫る敵を薙ぎ払っていた。
「洞爺さん、十時の方向に敵多数。援護射撃をお願いします」
「オッケー」
建御名は春秋先輩と鹿島の支援を狙撃手にまかせ、また双眼鏡で前線の様子を見た。
「!」
建御名は一度双眼鏡から目を離し、目をぱちぱちとさせてから、もう一度のぞいた。
見間違いではない。
須虞那紬が体の前に赤ん坊をかかえ、子供を背中におんぶし、戦場の中を駆け抜けている。手に鎌を持っているが、逃げることに徹しているようで、ほぼ丸腰でひたすら走っていた。
赤ん坊と子供の救出を最優先している……。
建御名はそのことにすぐ気が付いた。
「一時の方向、赤ん坊と子供を抱えた須虞那紬が前線を離脱するために走っています。子供を守るためほぼ丸腰です。最優先で援護をお願いします」
建御名の言葉に隊員たちは驚いて一瞬手を止めたが、言われた方角を見て、驚愕しつつ、すぐに支援に回った。
その間にも様々な場所で接戦が続き、須虞那紬の支援を優先しつつ、他の戦いの支援も続けた。
そんな中でそれは起きた。
もう少しで須虞那紬が前線を離脱できそうになった時、巨大な黒い影が大きな岩を須虞那紬に向けて投げようとしていた。巨大な黒い影を矢ですぐに倒したが、岩はすでに投げられてしまっていた。
「あの大きさと厚さの岩は破壊できない」
狙撃手が叫んだ。
あと少しで離脱できるのに――。
その時だった。
オオワシが大きな岩めがけて投石を行った。
そして九時の方向から岩めがけて何かが飛んできた。
鹿島のこん棒だった。鹿島のこん棒は、鉄で出来ていた。
オオワシの落とした岩と鹿島の投げた鉄の塊のこん棒が大きな岩にあたった。
大きな岩は砕けながら落下し、周囲にいた黒い影が何体も倒れた。
そして須虞那紬は後ろを振り返ることなくひたすら駆け抜けたことで、飛び散る破片にあたることなく、前線を離脱することができた。
「やったあ!」
建御名ほか、その場にいた隊員は歓声を挙げた。
重い鉄の塊であるこん棒を投げる。
これは、このこん棒を武器として戦い、走り回ることができる鹿島だからこそできた荒業だった。
だが建御名はすぐに我に返り、鹿島の方を双眼鏡で見た。
「九時の方向、最優先で黒い影を掃討―――」
建御名の叫びに、その場にいた隊員も事態を察知し、全員が攻撃を行った。
援護射撃をする隊員から集中砲火を浴び、黒い影は次々に倒れた。
さらに朝陽が差し込み、黒い影は煙となり消えていった。
しかし、時すでに遅しだった。
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次の更新タイトルは「再会」です。
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