うわぁ~、飛べちゃったよ
「ところで洩矢先輩はそばに神がいるんだろう。狭霧の神懸りと何が違うのかな?」
俺の問いに狭霧は「ああ、そのことか」という感じで頷いた。
「それは僕も疑問に思ってじっちゃまに聞いたよ。洩矢先輩の場合は、とても特殊なケースで、『神憑り』のような適切な言い方がないらしいんだ。あえていうなら、守護霊を言い換えた、守護神かな、って」
「守護神……なんだか神憑りより強そうなニュアンスだな」
俺の言葉に狭霧が苦笑した。
「それがそうでもないらしいよ。神は本来高天が原にいるはずなのに、中つ国に依り代を使わずそのまま存在すると、存在が強すぎてしまう。だから本来の力をぐーっと弱めた上で洩矢先輩のそばにいる。だから守護神として存在するぐらいなら、神憑りしてもらった方が本当はいいってじっちゃまが言っていたよ」
「へぇー」
その時だった。
突然端末からけたたましいアラートが鳴った。
バンは急ブレーキで止まった。
慌てて端末を取り出すと
「お台場防衛本部から各位
金山採掘場の坑道に黄泉の国の軍勢が出現。
採掘作業中に黄泉の国の入口を開いてしまった模様。
現在、黒影二名で応戦中。
今回、数が多いため、監視塔からも一名、
現場に向かっています。
もし応援可能な黒影がいれば、返信願います 以上」
というメッセージが表示されていた。
「えま先輩、これって……」
「うん、こーゆうメッセージが、正式に任務に就くと送られてくるようになるんだ。蓮くんと狭霧くんに送られてきてしまったのは、裏方くん達が勘違いしちゃったのだろうね。神降ろしをした隊員=任務ができる隊員と思ってしまい、送ってしまったのだろう」
陽菜を見ると、しょぼんとしていた。
「陽菜には来てないのか……」
「来てないよー。どうせ陽菜はまだ神降ろしできてないから、蓮の馬鹿」
「ご、ごめん」
「えま先輩、僕、行けます」
狭霧が身を乗り出した。
「そう言うと思ったけど、ぼくの任務は三人を防衛本部に連れて行って、その後無事に神社へ送り届けることなんだよぉ」
「僕もえま先輩にそう言われると思っていました。ですので許可はいりません。勝手に行ったと上には報告してください」
そう言ってバンから降りた狭霧の姿は、さっきまでの着物に袴姿ではなかった。
氷色の水干に裾が濃紺で金糸の模様がある括袴…まるで牛若丸みたいだ
「ちょ、狭霧くん、いつの間に天の羽衣を――もう使えるわけ⁉ 飛べるの⁉」
狭霧はつま先を地面でトントンと軽くたたき、さらに地面の感触を確かめるように、両足を動かし、次の瞬間、軽く、一歩、二歩、三歩と踏み出し、ふわりと体が浮いた。
浮くと言っても数センチとかのレベルではなく、十メートルぐらいの高さまで浮き上がっていた。
狭霧は方角を確かめるようにあたりを見渡すと、次の瞬間、左足の裏で見えない壁を蹴ったかと思うと、ものすごい勢いで、俺たちの右側の空に飛んだ。
「うわぁ~、飛べちゃったよ」
えま先輩はそう言うと端末を取り出し、通話を始めた。
えま先輩としては狭霧を追いかけたいのだろうけど、俺と陽菜がいるから追うこともできず、途方に暮れている感じだった。
その間に狭霧の姿はもう夜空の星と変わらない大きさになっていた。
「義経の八艘飛びみたいだったね」
陽菜は空を見上げてつぶやいた。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
引き続きお楽しみください!




