狭霧の変化の理由
防衛本部に向かっている時はまだ明るかったのに、今はもう暗くなっていた。
雨降ろしの後はよく晴れると聞いたが、確かに夜空に雲はなく、星が綺麗に見えていた。
「ねーねー、狭霧、奈美先輩が言っていた、神憑りって何~?」
陽菜が尋ねると、狭霧は「ああ」と言って説明を始めた。
「陽菜と蓮に話そうと思っていたけど、なかなかそのチャンスがなくて、話せていなかったね。僕のこの体の変化のことと関係しているんだ」
狭霧の体の変化については俺も知りたかったことなので、俺は体を狭霧の方へ向け、じっくり聞く態勢に入った。
「神降ろしをしていた時に、僕と縁のある神が言ったんだ。その神は僕の……父と、とても相性が良かったって。多くの敵を倒し、強い絆で結ばれていたって。でも、父の時代には神降ろしはまだなくて、父に自分の権能を与えることができなかった。もし神降ろしをしたうえで、剣をふるっていたら、父は……。助けられなかったことの後悔が神の中にあったようで、僕が同じような目に遭わないよう、僕と共にいようと言ったんだ。そして僕の中に、その神が降りてきたんだ。それを神憑りと言うのだと、今日、じっちゃまに教えてもらった」
「えーーー、狭霧の中に神がいるの⁉」
陽菜は驚きすぎて、目が点だ。
「その神憑りという状態になると、姿かたちが神によってくる、ということなのか?」
「じっちゃまによると、依り代……つまり僕との相性の良さで変わるらしい。相性がよければ神の姿が依り代に強く反映されるって」
「なるほど……」
納得した俺に対し、陽菜は疑問が尽きないようだ。
「自分の中に神がいるってどんな感じなの? 狭霧が陽菜たちと会話している時、神も聞いているの? 陽菜たちは神と話すことができるの?」
「どんな感じか……。うーん、率直に言えば、神憑りになる前と後で大きな変化は感じないかな。その外見の変化以外で。僕の中の神は、静かに俺を見守ってくれるタイプなのかな。僕が話している時に邪魔をすることもないし。陽菜が話したがっている、と伝えたら、話してくれるような気もする。もちろんノーかもしれないけどね。ちなみに神が前面に出てきて、僕の代わりにしゃべっていたことがあるけど、蓮、気が付いていた?」
「え⁉」
俺は狭霧との会話を思い出そうとするが、その数はあまりに多くてどの時だったのかさっぱりわからない。
「ね、神が代わりにしゃべっている時って、話し方とか声の質とか変わったりするの?」
陽菜のその質問で、俺は思い出した。
「狭霧、分かった! 本殿の鍵を開けたのは神なのかと聞いた時、『違う』って答えた声が狭霧の声じゃなかった。なんというか大人の貫禄がある少し低めの声だった」
「正解だよ、狭霧。思わず答えてしまった、って感じだったね」
「なるほど~」
俺は納得だったが、その場にいなかった陽菜は「聞きそびれた~」と、とても残念がった。
「ねー、狭霧の神は、ずっと狭霧と一緒なの? もともとは神社で奉られていた神なんでしょ。狭霧にべったりでいいのかな? 神社に戻ってそっちのお仕事とかしないのかな?」
陽菜の疑問は尽きず、そしてなかなかユニークな疑問だった。
「うーん。僕が寝ている時はどうだろう。どこかに行っているのかもしれないね」
狭霧は自分でそう言った後に即訂正した。
「違う。これまで人間が言うところの御神体……剣にいたが、剣ではなく、今は天野狭霧という人間の中へ移っただけだ。これまで通り、人間からの祈りは聞こえるし、ちゃんと対応している」
みんな沈黙した。
……今の声、神だ!
「すごーい! 陽菜の質問に神が答えてくれた!」
「そう、俺が聞いたのはこの声だ」
「ぼ、ぼく、初めて聞きましたよ、神の声」
助手席で俺たちの会話を黙って聞いていたえま先輩までもが興奮を抑えきれず、話しかけてきた。
「みんな落ち着いて」
この声は狭霧だ。
「僕にとって大切な、縁のある神なんだ」
その一言に皆、はしゃぐのをやめ、神妙な面持ちになった。
……確かに狭霧の言う通りだ。好奇心がまさって、礼を欠いてはいけない。
「狭霧、ごめんなさい」
陽菜があやまり、俺もえま先輩も次々に「ごめんなさい」と頭を下げた。
「怒らせちゃったかな……」
涙目の陽菜に「大丈夫だよ」と言って、狭霧は手のひらでその頭にぽんぽんと軽くふれた。
「神は怒ってなんかいないよ。僕ら人間が想像できないぐらい広い心を持っているし、とても寛容だから。さっきの言葉は僕の言葉。僕からのお願いだから」
「うん」
陽菜が頷いた。
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蓮たちが暮らす東京の夜空は今より沢山の星が見えていそうです。
引き続きお楽しみください。




