卑怯な犯人
「それで中に入ったのはいいけれど、突然激しい頭痛に襲われて、後のことはなにも覚えてないんだってー」
陽菜の話が終わる頃には俺も狭霧もすっかりお弁当を食べ終えていた。
「沢野さんや小川さんも田畑さんと同じように、職場に老人が現れて、金を渡されたんだって。しかも耳元で誘惑の言葉を囁かれ、激しい頭痛を感じている。陰陽頭は、この時に影の血が耳から浸食して脳に巣くったのではないか、って言っていたんだよ~」
一気に話して疲れたのか、陽菜はお茶をごくごく飲んだ。
するとえま先輩が話を続けた。
「沢野さんも小川さんも、真面目に働いている人だったけど、それぞれの理由でお金に困っていた。そして謎の老人はそこに付け込んだ。悪い奴だよねー」
確かに三人とも見るからに人の良さそうな感じだった。
そんな人を貶めるなんて……。
「何よりも今から約一年前に、この三人に影の血を浸食させているんだ。犯人は相当用意周到に、そして計画的に犯行を進めている。しかも本殿で狭霧くんが神降ろしをしているだろうと目星をつけているんだよ。そして神降ろしを邪魔し、狭霧くんに危害を加えようとした……一体誰なんだ、こんなことするのは?」
えま先輩のこの言葉を聞き、俺は犯人に対し、とてもつもない怒りを覚えていた。
神降ろしで無防備な狭霧を、自分の手は汚さず、一般人を操り、危害を加えようとするなんて、絶対に許せない……。
俺は拳を握りしめた。
「今から一年前……影の血に一年近く浸食されて、三人の体は大丈夫なんですか?」
狭霧の言葉で、俺の脳裏に三人の顔が浮かんだ。
「普通、影の血に浸食されると、脳から始まって体のすべてが浸食されちゃうの。そうするともう元の人格も残らない。でも今回は脳の一か所に、しかも極小サイズで静かに潜んでいる感じだった。だから一年近くも浸食されていたのに体や脳への影響はなかったんだ。しかも、影の血の浄化方法も最適なものだった。破魔矢も雷も狭霧くんの剣も、ピンポイントで影の血だけを浄化した。だから奇跡的に無傷で済んだんだよー」
そう言った後にえま先輩はさらに付け加えた。
「浸食された人間を無傷で浄化するって神業だからね。芽衣さんも蓮くんも狭霧くんもかなり才能あるんだからね」
その言葉に俺はちょっと照れたが、狭霧は冷静にお茶を口にしてえま先輩に尋ねた。
「脳の一か所に静かに潜むことで、強硬な結界をかいくぐることができた。そして一年という長期間、浸食されていることがバレなかった。元々長期潜伏と、結界に感知されないことを最重要と考えていたのでしょうか」
「だろうね。そーゆう浸食もあるんだって、ぼくは初めて知ったけど」
「あの、でも本殿の中に入って、三人衆は豹変しました。人間としての姿は保っていましたが、顔つきや動きは明らかにおかしくなっていました。あの豹変の脳や体への影響はなかったのですか?」
「蓮くん、いいところに目をつけたねー。実は陰陽頭もそこを気にして、旦那三人衆のことを拝殿で診ていたの。ところが、影響はゼロ。多分、脳からの指示で表情や体の動きが変化していただけだったんだね。つまり蓮くんが見た表情や体の動きの変化は、人間としての範囲内だった」
人間の範囲内……。それであんな形相になるなんて。
俺は身震いをした。
「影の血による浸食を分かりやすく言うと、指人形ってあるでしょう。あれは人形の形になっているけど、中は空洞でそこに指をいれて動かす。影の血に浸食され、操られている状態というのは、指の代わりに影の血がそこにはいっていて、人形を動かしている状態だね」
ああ、なるほど。
俺たちは理解し、頷いた。えま先輩の説明はとても分かりやすかった。
「あの、豹変した状態でも、影の血はまだミストで浄化されないレベルだったのでしょうか? ミストが浄化対象と見なさないレベルだったのですか?」
狭霧の問いに俺はハッとした。
三人もの人間が操られている。しかも目をちょっと動かすというレベルではなく、顔の表情を激しく変え、体全体の動きも不自然にしている。それだけ体を動かすパワーを考えれば、影の血は潜んでいるというレベルを超えている気がした。
ミストが作用し、浄化されておかしくないと狭霧が考えるのも当然に思えた。
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犯人は一体誰なのか?
引き続きお楽しみください。




