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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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オリエンテーション

「それではオリエンテーションを始めます。レジュメは各自の席のスクリーンモニターに表示されるので、食堂で使った端末をセットしてください。レジュメは自動保存されます」


木ノ花先生がそう言うと、各自の机にセットした端末からスクリーンモニターが投影され、オリエンテーションがスタートした。


最初の一時間で、抜粋した歴代の黒影隊員を紹介しつつ、黒影に課された任務、そしてこの施設の詳細が明かされた。


初代黒影の頭領だった熱田あつた たけるは現在もここ、東京にいた。


東京湾と駿河湾に出現した金山の管理及び採掘を一貫して行う「金山統括庁」の責任者として、だ。


金山統括庁は他の省庁が京都にあるのに対し、唯一東京に本拠地を構えていた。


俺たちがいるエリア、金剛お台場山防衛本部(略称は防衛本部)から直線道路で結ばれた先にあるのが、金山統括庁や金山で採掘を行う公務員の宿舎の他、役場や警察署、ショッピングモールなどがある金剛お台場山採掘本部(略称は採掘本部だが、皆、普通に「町」と呼んでいる)だ。


黒影隊員が防衛するのは防衛本部と町、そして金山だった。


金剛お台場山で採掘された金は、採掘本部へトラックで運ばれる。そして採掘本部にある金加工場でいわゆる金の延べ棒に加工される。そして輸送機で京都へ運ばれていた。


そちらの防衛は、航空自衛隊が行っていた。


俺はてっきりこの寮があるエリア以外は何もないと思っていたので、まさか町があるとはと、とても驚いた。だがそれ以上にビックリした情報がある。


それは現在の黒影隊員の中で一番の古株が、第六期に入隊した沫那美美鶴という情報だ。


そう、あの驚異的な身体能力を持つアジアンビューティーのことだ。しかも彼女は頭領代理、すなわち現黒影隊員の中で頭領に次ぐ実力の持ち主、すなわちナンバー2だった。


「卓球、一点も取れなかったの、当然だね」


隣の席の陽菜が俺に耳打ちしたが、まさにその通り。むしろ、沫那美先輩が十一点とるまで耐えたことを褒めてもらいたいぐらいだった。


「おっと、十四時になるわね。それじゃ十分間休憩!」


そう言って木ノ花先生が廊下に出ると、陽菜は狭霧に沫那美先輩とのことを話し始めた。


沫那美先輩が並外れた美人かつ身体能力の持ち主であり、でも突然卓球に誘うなど不思議な人であることを狭霧に聞かせた。


一通り聞き終わった狭霧は「なるほど」と頷いた。


「えー、反応それだけ?」


陽菜は不服そうだ。


「あ、ごめん、ごめん。いや、沫那美先輩、なんで唐突に二人を卓球に誘ったのかなーって思わず推理していた」


「え、どういうこと? たまたま娯楽室に私たちが来たから誘ったんじゃないの?」


「うん、陽菜の言う通りかもしれないね。でも、彼女は頭領代理だ。頭領代理というのは、もちろん頭領に何かあったときに頭領に代わって動く立場ではあるけど、そんな状態になるのはよっぽどの緊急事態。通常時の頭領代理の役割は頭領を補うことだと思うんだ。もしそうであれば天津頭領は食堂で僕たちを軽く観察して、どんな性格なのかつかんだと思うんだ」


「えええ、天津頭領とは自己紹介ぐらいしか会話してないよね⁉」


「うん、そうだね、陽菜。でもその自己紹介だけでも性格は出ると思うよ。例えば最初に自己紹介した人と同じことを言う人は、周囲との協調性を重んじる傾向がある、とかね」


「……!」


陽菜は驚いて目を大きく見開いた。


ちなみに陽菜は俺の自己紹介とはまったく違うことを言っていたが、それは個性的ってことになるのか。


「あと、僕らが注文した料理でも性格を見ていたと思うよ。陽菜はなんでチキンソテーを選んだの?」


「あ、それは、本物のチキンなんてなかなか食べられないし、天津頭領が鶏を天塩にかけて育てて、って言っていたから、きっとチキンソテーは美味しいに違いないと思って。それに夜の歓迎会でまた会おうって言っていたから、その時にチキンソテーのことも話せるかなって」


「なるほど。蓮はなんで蕎麦にしたの?」


「え、いや、その~、入隊が決まって気が抜けたのか、春休みの間に食いすぎちゃって。それで蕎麦なら大盛食べてもヘルシーだろうな、と」


「僕は東京湾が消えて金山になっているのに、なんで鮮度も重要な魚料理があるのだろうと思ってムニエルを選んだんだ。食べれば代替品か冷凍品か、はたまた捕れたてかもわかるし」


「え~、何を選んだかでどう性格が分かるの~?」


「僕は探求心があるけど、協調性がない。蓮は物事を疑わず、まっすぐ我が道をいく傾向がある。陽菜は自分の欲望を優先しつつも、気配りができる、みたいな感じかな」


「……なるほど。天津頭領、ほんの数分でそんな風に俺たちを分析していたのか……」


「僕が思うに、天津頭領は意図的にそうしていたわけじゃないと思う。自然と身についているというか、職業病? 僕も意識せず分析をしちゃうけどそんな感じじゃないかな。調理している時もちらちら僕らの方を見ていたし」


「……なんか、その分析する感じ、狭霧と天津頭領は通じるものがあるな」


俺の言葉に狭霧は頷いた。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

コツコツ更新していくので、引き続きよろしくお願いします。


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