さくらんぼ
扉を叩くと「入れ」とじっちゃまの大声が聞こえ、俺は扉を開け、中へ入った。
すでに話がひと段落していたのか、二人は俺がちゃぶ台へ戻るのをじっと見ていた。
これ、遅いってことに対する無言のプレッシャーかな。
俺は変な汗をかきつつ「はい、こちらがさくらんぼです」とじっちゃまに渡した。
じっちゃまはさくらんぼ受け取ると、「うん、今年も良いできじゃ」と言い、腰をあげると、水場に向かった。
「……俺、戻るの遅かった?」
俺は小声で狭霧に聞いた。
「そんなことはないよ。丁度いいタイミングだったよ」
俺はホッとして胸をなでおろした。
「ほれ、天然ものはうまいぞ、食うてみい」
ガラスの器に盛られたさくらんぼはキラキラしてとても美味しそうだった。
「いただきます」と俺と蓮が声を揃えてさくらんぼをつまんだところで、端末の通知音がした。
俺と狭霧はそれぞれ自分の端末を見たが、通知音はじっちゃまの端末だった。
「終わったようじゃな」
じっちゃまは端末に見入った。
俺と狭霧は黙ってさくらんぼを食べた。
一連の災害以降、自然栽培された野菜や果物は減っていたので、俺は天然のさくらんぼを食べるのはこれが初めてだった。
皮は弾力があったけど、果肉はほどよい噛み心地で、優しい甘さが心に染みた。
遠慮しながら食べていると
「これは二人で食べてよいんじゃぞ」
じっちゃまはそう言うと、また端末に目を戻した。
俺と狭霧は遠慮なくいただくことにして、さくらんぼを平らげた。
「……そーゆうからくりじゃったのか」
じっちゃまそういうと、端末をしまい、こめかみを押さえた。
「神降ろしと昨晩起きた件は、おぬしたちが話してくれたおかげですべて把握することができた。他に質問がなければ……」
「はいっ、あります」
俺は勢いよく手を挙げた
「なんじゃ。言うてみぃ」
「あの、狭霧の姿はどうして変わってしまったのですか?」
「……ああ、これか。これはな、実はすごいことなんじゃ。本人に説明してあるから、後で聞くといい。ここにいないもう一人とな」
「あ……はい。ありがとうございます」
陽菜のことも気にかけてくれていたんだ、じっちゃま。
「ではこれでしまいじゃ。わしはハナノコと残っている黒影の隊員に話があるからしばらくここをあける。そこに来客用の布団があるから、それをしいて少し休むといい」
そう言われると、お腹もいっぱいということもあり、眠たくなってきた。
狭霧を見ると、同じように目がとろんとしていた。
その間にもじっちゃまは扉の方に向かうと出て行ってしまった。
「狭霧、休むか」
狭霧は朝食の食器を洗い、その間に俺は布団をしいた。
その後、布団に潜りこむと俺たちはあっという間に眠りに落ちた。
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次回更新は明日、土曜日なので、夜21時に7話公開です。
次の更新タイトルは「陽菜とえま先輩」です。
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