アジアンビューティー現る
突然の声に思わずビックリしたが、それ以上に驚いたのはその女性の美しさだった。
端的に言えば、現在にかぐや姫がいたらこんな姿なのではないか、というまさにアジアンビューティーだった。
サラサラの長い黒髪、吸い込まれるような黒い瞳、桜色の唇、やわらかそうなもち肌。
陽菜もその美しさに目を奪われ、言葉がでないようだった。
「二人とも、私の声は届いているか?」
「あ、はい。俺は見ているから、陽菜、相手してもらえば?」
「少年、それは違う。私は二人を相手に遊びたいと思っている。……卓球でいいかな?」
「はっ、はい。いいですよ。な、陽菜」
「う、うん。もちろん」
こうしてお互いに名乗ることもなく、卓球を始めることになった。
二対一だし、何かハンデがなくていいのかと思ったが、アジアンビューティーはラケットを俺たちに渡すと、唐突に「じゃんけん、ポン」と言った。
その気迫に押された俺と陽菜はパーを出し、彼女はチョキで勝ち、卓球がスタートした。
サーブを打ちながら、「とりあえず先に十一点を取った方が勝ちということで」とアジアンビューティー。
「了解です」と俺が答えるよりも先に、強烈なサーブが打ち込まれ、俺も陽菜も微動だにすることができなかった。
な、なんだ、このスピードと強さは。
俺が陽菜を見ると、陽菜も俺を見た。
言葉を言わずとも二人とも理解した。
このアジアンビューティー、卓球は相当の腕だ、と。
そして、あっという間に勝負はついた。
「あー、昼食前のいい運動になった。ありがとう、少年と少女よ」
アジアンビューティーはあれだけのサーブとスマッシュを打った後とは思えないほど息もきれておらず、一糸乱れを見せぬ姿でこの場を後にしようとしていた。
一方の俺たちは彼女の繰り出すスピードと強さと威力に散々翻弄され、息も絶え絶え、髪も服も乱れ気味だった。
「あ、あの、せめてお名前を」
陽菜が時代劇みたいな台詞を絞り出すと、アジアンビューティーは入り口の扉の前で立ち止まり、振り返った。
「ああ、すまない。名乗りもしていなかったな。私は沫那美 美鶴という。二人とも、名前は?」
「黒雷蓮です」「玉依陽菜です」
「そうか。二人とも良い名だ。蓮、陽菜、ありがとう」
すべての疲れを忘れてしまうような綺麗な笑みを浮かべ、沫那美先輩は娯楽室を後にした。
陽菜と俺は申し合わせたようにベンチに腰をおろした。
「……なんか、すごかったね。でも、充実していた」
「ああ。俺も。沫那美美鶴さん……もちろん黒影の隊員、だよな?」
「うん。陽菜と同じ制服着ていたし、身体能力半端なかったもん。それにしてもあれは単純に卓球が得意とかいうレベルじゃなかったと思う」
「同感」
「しかもすごく綺麗な人だったな~。とってもいい香りもしたし。同性から見ても魅力的だった」
「うん。俺、かぐや姫みたいだと思った」
「わかる! 艶のある長い黒髪と絶世の美しさ♡」
「俺、運動神経には自信があったけど、まったく敵わなかったよ。ホント、滝のように勢いのある人だったな……」
その後、オリエンテーションまで時間があったが、それ以上遊ぶことはせず、ベンチでそれぞれ横になり、端末のアラームをセットすると、疲れをとるため昼寝をした。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
コツコツ更新していくので、引き続きよろしくお願いします。




