009 再開と姉妹の形
目が覚めた。また病室だ。今度は運ばれた自覚がしっかりある。
背中がじんじんと、燃えるように熱い。その次に分かったことは、横に氷彗さんが座っていたことだ。
「ひ、氷彗さん!?」
「……医者を呼ぶわ」
そう言って氷彗さんはナースコールをした。数十秒後、綺麗なナースさんとともにお医者さんが駆けつけてきた。前回見たお医者さんじゃない。たぶんここは魔法少女センター内にある病院なんだろう。
「目覚めましたね桜坂隊員。背部への魔力干渉による火傷で全治1週間です。この間は出動しないように」
「は、はい。あの!」
私は自分の症状が聞きたいわけではなかった。それよりもっと気になることがある。
「今回のエネミー出現で被害者は出ましたか?」
「出ていませんよ。山吹隊員によると君が覆い被さって市民を守ったそうですね。市民から感謝の言葉も届いています。今日はここで休んで、明日読んであげてください」
では、と言い残してお医者さんは病室から去った。ナースさんもそれに続いたから、病室には私と氷彗さんの2人きりとなる。
「……傷は?」
「ちょっと痛みますけど、大丈夫です」
あまりに簡素すぎる問いに、どう答えればいいのか迷った。ただ氷彗さんの様子を見ていると返答として間違ってはいなかったみたい。
氷彗さんの表情はいつもに増して暗い。なぜかはわからないけど。
「……じゃあ部屋に戻るわね」
「あ、はい! わざわざお見舞いに来てくださってありがとうございます!」
私のお礼に返事をすることなく、氷彗さんは病室を去って行った。
ベッドから起きて歩いてみると、やっぱり背中がじんじんと痛む。でもまぁ、市民を一人助けられたんだから安いものかな。
ふと自分のカバンが運ばれているのがわかった。たぶん氷彗さんが持ってきてくれたんだろう。私は財布を取り出して、廊下に出た。
きっと自動販売機くらいならあるよね? 暇すぎるし、ジュースくらい飲みたいな〜。
そんな軽い気持ちでいると、どこからか聞き難い声が聞こえてきた。とても辛そうな、黒い感情を内包したような声。
チラッと声の出所を覗いてみると、そこには見覚えのある2人の顔があった。
茶髪ロングの活発そうな女性と、もう1人は黒髪ボブの大人しそうな女の子。忘れもしない、トヨタ中央高校に駆けつけた魔法少女だ。
「あっ……」
「美空! ……うっ」
美空ちゃんが先に転んで、それに気を取られた茶髪ロングの女性も倒れてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
私は2人に駆け寄って手を差し伸べ、もう一度手すりを掴めるくらいにまで立つのを支えた。
「ありがとう……見ない顔ね、新人?」
「お姉さま、私はどこかで見たような気がします」
美空ちゃんの方は私のことを少しだけ覚えてくれているみたい。
「えっと、桜坂愛梨です。先日のトヨタ中央高校の事件ではありがとうございました」
私が事件のことを口にすると、2人は表情を曇らせた。
「そう、あの事件の子ね。特例で魔法少女になった子がいるって聞いたけどあなただったんだ」
「私のマギア・ムーンを使ったんですよね。良かったです、1ミリでも貢献できて」
2人は自嘲気味に視線を逸らした。その心中をすべて察することはできないけど、一部ならわかる。67人を死なせてしまった魔法少女という立場に私がなれば、その辛さは尋常ではない。
「と、とにかく病室に戻りましょう! 大怪我しているんですよ?」
私は2人を支えながら病室へと連れて行った。ベッドに2人を寝かせ、私は椅子に座る。この2人に比べれば私の背中の怪我なんて軽いものだ。
「ありがとう。私は佐々木芽依。クラス4」
「私は二宮美空。クラス2です」
芽依さんも美空ちゃんも聞かされていた通りの重症だ。それだけあのエネミーが強かったのがわかる。
「愛梨はなんで病院にいるの? もう怪我したの?」
「は、はい。さっき……というか6時間前にエネミーと交戦して怪我をしたんです。エネミーは氷彗さんが倒してくれましたけど」
「……また山吹氷彗か。すごい子だよね、本当」
芽依さん……クラス4という上級魔法少女に位置付けられている人にとっても氷彗さんは別格らしい。
「愛想が良ければ文句の付け所もないですよね、お姉さま」
「ふふっ、それは一生変わらなさそうだけど」
ようやく芽依さんと美空ちゃんの笑顔が見られた。氷彗さんの妹としてはだいぶ複雑な会話から生まれた笑顔だけど。
「……聞いたわ、事件の後のこと。私たちがやられた後、愛梨が変身して一度攻撃を退いて、その後に氷彗が沈めたんでしょう?」
「は、はい。そうです」
「……ごめんなさい。私たちが不甲斐ないばっかりに……」
「そ、そんな! 謝らないでください! 芽依さんも美空ちゃんも私たちの学校を守ろうとしてくれたじゃないですか!」
私は口ではこう言うけど、心の中では2人の気持ちが理解できた。立場が逆だったら、私も絶対に謝っているから。
ただ思っていたより2人の目は死んではいなかった。むしろ燃えるような何かを感じる。
「こんな私たちだけど、絶対に諦めたりしない。美空とリハビリして、復帰したらまた魔法少女として戦うから」
「お姉さまと一緒なら乗り越えます。今度こそ役に立つことを誓います」
2人は心強い約束を私にしてくれた。
私は自動販売機のことなど忘れて病室に戻り、届いた夕飯を食べた。柔らかいご飯を噛んでいる途中、涙が溢れてきた理由を、この時の私は理解することができなかった。




