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086 泣けぬ姉の弱さ

 異変を感じ、外へ飛び出した私。

 黒い柱が夜の名古屋に現れたと思えば、すぐに消えたけど胸のざわつきはずっと残った。

 恐る恐る歩いて、黒い柱の根元へと向かうと、そこにはよく知った顔が2つあった。

 1つは顔が腫れ、赤くなっている少女の顔。

 もう1つは安らかに、悔いがないとは言い切れないながらも天命を全うしたような少女の顔。


「氷彗さん……」

「………………」


 氷彗さんは返事をしてくれなかった。

 有馬さんもまた、私に話しかけてはこない。いや、もう一生有馬さんに話しかけられることはないのだろう。

 彼女は胸から腹までぽっかりと穴が空いており、どう見ても亡くなっていた。


 有馬さんを殺したのは氷彗さんではないのはすぐに分かる。

 きっとここで2人は戦っていた。その時、何者かが乱入して有馬さんを……。


「さっちゃん!」「皐月!」


 反対側からやって来たのは安田優さんと宝塚菊さんだった。

 2人とも有馬さんの様子を見て、絶望の表情を浮かべている。


「嘘だろ……皐月!」

「さっちゃん! 目を覚まして!」


 氷彗さんは有馬さんを2人に預け、立ち上がった。


「……有馬皐月を殺したのは黒天二柱というエネミーの親玉よ。次はこの星が標的になった。逃げるか、隠れるか、戦うか。あなた達も選びなさい」


 黒天二柱……!

 卑弥呼さんの手記にあった、エネミーの母星にいるさらなる脅威ってやつだ。

 安田優さんも、宝塚菊さんも何も言うことができず、ただ黙って有馬さんを抱き寄せた。


 これで一つの復讐が終わった。

 でも……氷彗さんの中でもう一つ、大きな復讐が生まれた気がする。


 部屋に戻ってきた私たちは一言も交わすことなく、とりあえず氷彗さんの顔の処置に入った。

 氷嚢で腫れている箇所を冷やす。その間に氷彗さんは多大なストレスのせいか、発熱してしまった。

 ベッドに寝かせて汗を拭き取り、寝付くまで看病した。


 氷彗さんは……泣いていなかった。

 クラス6として、今は泣くべき時ではないと思っているのかもしれない。

 泣かない強い姉と、こんな時に泣けない弱い姉。その両面を見た私は決心した。

 氷彗さんと一緒に戦う。黒天二柱がどんなに強い化け物でも、諦めずに戦ってみせると。

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