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085 最後の姉妹対決:後編

 3本目の注射を打った有馬皐月は、もはや死体と区別がつかないような生気のない顔をしていた。

 興奮状態になるかと思ったけど、むしろその反対。虚を突かれたわね。


「あぁ……溢れてくる。これが、力か」


 少し口調すら変わったように思える。まるで神にでもなったかのように。

 突如、有馬皐月は手を広げ、魔力を練り上げた。

 黒い魔力は可視化できるほど濃縮されており、触れればこの世から存在が消え去ることは容易に想像できた。


「バン」

「うっ!?」


 安っぽい言葉に惑わされたけど、なんとか避けることができた。鶴舞公園のオブジェは黒い魔力に包まれ、塵1つ残らずこの世から姿を消した。

 このデタラメで暴力的な強さ……似ている、魔龍に。


 接近戦は危険ね。得意な距離ではないけど、遠距離から……


 そう思っていたのも束の間、有馬皐月が視界から消え去り、私の後ろに現れた。


「ぐっ……!!」


 身体を捻って反応し、氷の剣で斬りかかる。

 しかし、有馬皐月から絶えず流れ続ける黒いオーラに氷は溶け切ってしまった。

 やられる……! そう思ったけど、有馬皐月は魔法ではなく拳で私を攻撃した。


 重たい一撃。顔に激痛が走るし、鼻からは流血が確認できる。

 でも死ぬよりはマシだった。有馬皐月は復讐したい一心で殺すことを後回しにしている。これならまだ可能性はある。


「いい気味。綺麗な顔なのに殴って」


 少し言葉選びも曖昧というか、ボヤけたものになっている。間違いなく注射のせいだろう。いったい何が入っているというの……?

 有馬皐月は手を緩めることなく、私のことを殴り続けた。特に顔に対する執着があるのか、顔面を執拗に殴り続けてくる。


 ただ人間は殴るだけでもかなりの体力を消耗する。

 それが少し見えた瞬間、私は反撃に出た。

 殴りかかってくる腕が少し遅くなったため、掴んで腕を凍結させた。


「ぐあぁっ!」

「はっー、はっー……戦い慣れしていないわね」


 前歯が一本折れた。あとは鼻血と……口の中も切れたわね。

 もしかしたら顔も醜くなっているかもしれない。愛梨はそんな私でも、受け入れてくれるかしら。

 凍結させた腕を持ち、私は有馬皐月を気絶させようとする。


 その時、だった。


 唐突に「それ」はやってきた。

 空から伸びる柱のようなもの。

「それ」は黒い光で、有馬皐月の腹を突き破った。

 鮮血が目の前を飛び、私の意識を錯乱させてくる。


「やーーりぃ! 俺の勝ちぃ!」


 ホログラムのように点滅するのは黒い体の……鬼? のような生命体。間違いなく人間ではない何か。


「あなたは何!? 何なの!?」

「あーん? 俺はヴリッド。すっげぇ力を感じたんで分身を飛ばしてみたらコイツだったんだよ」


 聞いてもいないことまで話してくれたヴリッド。

 特徴と、あまりの強さでわかる。こいつが壱与の話に出てきた、黒天二柱。母星にいるという最強のエネミーね。


「おっと時間切れだ。おい女。俺らは次、この星を直々に堕とす。ひと月後、また会おうな」

「……! 待ちなさっ……!」


 そう言ってヴリッドは黒い柱と共に消えた。おそらく着地と同時に攻撃を仕掛けたんだ。


「有馬皐月! 起きなさい!」


 恐る恐る確認すると、腹から胸にかけてが完全に損失していた。

 これは……どんな奇跡を起こしても治るものじゃない。


「ふふ……」


 なぜか有馬皐月は、笑っていた。


「本当はね、山吹さん。私……復讐のこと、迷っていたんだ。優や菊も話を合わせていてくれていたけど、正直言って二人は私ほど熱心じゃなかった」

「もういい喋らないで……」

「だめ。聞いてください。私は死にます。最後の言葉を……聞いてください」


 有馬皐月は自分で何が起きたのかを理解していたようだった。

 私も遅れてようやく理解した。卑弥呼の恐れていたことが、今起きたのだと。手記に記された強大なエネミーというものに、標的にされたのだと。


「山吹さん、私はあなたの妹になりたかった。あなたの妹は桜坂愛梨でなく、私のはずでした」

「…………」

「でもあなたは私ではなく、桜坂愛梨を愛した。ままなりませんね」

「私は……本当に愚かなことを……」

「えぇ。愚かです。だから私の復讐は山吹さんに呪いをかけることにします。桜坂愛梨を一生愛してください。これが私の……呪い……言葉……す……」


 有馬皐月は話す力を失い、体にかかった力も無くなった。

 今、一つの命が失われたのだった。

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