084 最後の姉妹対決:前編
変身した私を見る有馬皐月は、すでに正気の半分を失っているようだった。
その姿は痛々しく、同時に私に極大の罪悪感を植え付けてくる。彼女にそんな行動を取らせた諸悪の根源は、私だから。
「『ケルベロス・エンヴィ』」
蝋燭の先端から黒い炎が生み出される。そこからさらに形質を変化させ、完成したのは3首の大犬。
有馬皐月と同じように光を失った瞳をしたケルベロスは私を見て鼻息を荒くした。
「前回からの進歩を受けてください! 『ケルベロス・シュヴァルツ』」
3首の大犬の口が裂けるほどに開き、中から黒い靄のようなものが生み出された。
よく観察するとその靄は小爆発を起こしている。当たれば火傷では済まないのは簡単に理解できた。
「発射ぁぁぁあ!」
叫ぶ有馬皐月の声に応じるように、ケルベロスは靄を吐き出す。
3首から吐き出されるゆえに、範囲は尋常ではない。鶴舞公園の豊かな自然を呑み込み、焼き尽くしていた。
「『氷騎士』」
すかさず動きは鈍くなる分、抜群の堅牢さを誇る鎧を装着した。
靄に呑み込まれた私は不安に包まれるも、なんとか鎧は持ちこたえてくれている。
さて……ここからどうしたものかしらね。
この鎧は壊れるか、一度変身を解除するまで離れてはくれない。このレベルの戦闘で一度変身を解除するような余裕があるとは思えない。だけど動きが鈍くなって勝てるかと言われると……。
考えが逡巡する中、有馬皐月はもう一度『ケルベロス・シュヴァルツ』を吐き出させた。
2発目は想定していなかった。たしかにあの時より成長している。精神的なものが、有馬皐月を突き動かしたのかもしれないわね。
私は氷の短剣を作り、腕に突き刺した。
ダラダラと鮮血が垂れ、痛みに顔を歪める。
またしてもブラッディ・カーマの力を参考にすることになるとはね。
「『氷騎士:ブラッド』」
紅の氷が鎧となり、私を包んだ。
血には芳醇な魔力が蓄えられている。これで護る私の魔法は堅牢だ。
「ぐっ……はぁ、はぁ……」
「あなたでは私を貫くことはできないわ。復讐なんかやめて、ゾディアックも抜けて、あなたは魔法少女のことを忘れて生きなさい」
「そんなこと……できないっ!」
有馬皐月が取り出したのは、3本目となる注射器であった。
「やめなさい! そんなものを打ったら身体が……」
「関係ありません! ここで私は……さらなる高みへ行きます!」
首元に3本目の注射器を打ち込んだ有馬皐月は、その瞬間から別人のようなオーラを纏った。
いや……これは知っているオーラだ。
壱与に似ている。落ち着いた、強者のオーラ。
可視化できるほど魔力が漏れ出ている有馬皐月。
ゆっくりと顔を上げ、まるで遺体となっているかのような顔で私を睨んだ。
「さぁ、始めましょう。山吹さん」
その声は恐ろしく冷たかった。




