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080 雰囲気

 人型エネミーを倒してからの氷彗さんは早かった。

 すぐに伊月大臣へ報復をするべく、辺りを見渡している。


「くっ……逃げ足の速い男ね」


 でもどこを探しても伊月大臣は見つからないようだ。それこそ氷彗さんの魔力を感じ取る力をもってしても。

 戦闘が終わり、風香さんが須藤室長にことの経緯を伝えてくれている間に、私たちは部屋に戻った。


 ……2人部屋に私、氷彗さん、茜さん、夜伽さん、ブラッディさん。多いなぁとは思う。そして濃くもある。


「人型エネミーに集中していて伊月を見失っていたのは私の失態よ。素直に謝罪するわ」

「……あの切羽詰まった状況で人間を見張れというのは無理難題。気にすることはない」

「ってかさー、そんな鬱屈した空気にならなくて良くない? ルナたち人型エネミー倒したんだよ?」

「そうだよね。アタシたちの勢力が確実に一歩リードしたと思うんだけど」


 確かにそうだ。もう伊月さんの手元に残ったカードはあの爆砕天とかいうやつと、卑弥呼さんの魔力と、大臣というポジションだけ。

 その大臣のポジションも失おうとしているんだから、伊月大臣の手にはもうほとんど何も残っていないと言える。


「私もそう思います。伊月さんはもうほとんど打つ手がない状況でしょう。卑弥呼さんの魔力をどの規模で持っているかは分かりませんが、以前ほど警戒する必要はないんじゃないでしょうか」

「そう……ね。そう思いたいわ」


 今日は激戦の疲れからか、みんな上手く口が回ることはなかった。

 唯一気になっていたブラッディさんが来日できた理由だけは聞きだした。どうやら政権が傾く混乱に乗じて、プライベートジェットで飛んできたらしい。……もしかしてすごくいいところ出身のお嬢様なのかな。

 とりあえず今日はもう休みにして、解散になった。といっても私は氷彗さんと同室だからずっと一緒だけどね。


「ねぇ愛梨、素晴らしい動きだったわよ。良く考えたわね」


 氷彗さんは2人きりになった瞬間に笑顔になって、私の頭を撫でてくれた。


「ありがとうございます。壱与さんから教わった魔法で、打ち勝てました」

「そう、壱与……ね……」


 そう言って氷彗さんの手は頭から頬へと移り、そして首元へゆっくりと動かしてきた。

 そして私の顔を引き寄せるように力を入れ、私の唇を、自分の唇に重ねた。


「……こういう雰囲気のときに、他の女の話をするものじゃないわよ」

「す、すみません……」


 突然のことで驚いたけど、氷彗さんとはしばらくこうしたことをしていなかったから、喜びの方が勝った。

 死戦を潜り抜けると何か特別な感情を抱くこともあるという。まさに今が、その映画のような状況になっているのかもしれない。


 私たちはもう一度、唇を重ねた。それだけでは飽き足らず、2度目の体を預ける甘美な行為に、身を委ねるのであった。

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