079 零距離
6体が集結した人型エネミーは顔のパーツの中で口だけが揃っていない。不気味度はかなり和らいだと言える。
それに氷彗さんがいうには魔力も弱まっているらしい。夜伽さんと茜さんのおかげだね。
あとは私と風香さん、氷彗さん、ブラッディさんで仕留めることになった。
とはいえ少し距離がある以上、一番強い氷彗さんブラッディさんのテリトリーからは外れている。
「『プレデター・ウィンド』」
人型エネミーは太くて白い手を合わせ、中心に緑色の風を起こした。
少し離れたここにすら風が届いて髪や袴が揺れる。
「ぬぅん!」
人型エネミーが叫んだ瞬間、風が解き放たれて大きな竜巻となり、私たちに襲いかかってきた。
防御の魔法を使わなきゃ! と思ったけど、風はみるみると弱まっていつしか無風になってしまった。
「え?」
何が何だかわからないでいると、風香さんの持つ槍の先端が緑色に光り輝き始めているのに気がついた。
「風香さん、それ……」
「ん? あぁ、私は風の魔法をすべて吸収できるの」
珍しくドヤ顔で話す風香さん。その間に氷彗さんは動き出し、距離を詰めた。人型エネミーも6体結集の力を吸収されるのは予想外だったようで激しく狼狽えている。
「しかも吸収したのはお返しできるわ。『風精霊:シルフ』」
芳醇な魔力から生み出されたのは大きな風の美少女。なんとなく有馬さんの『ケルベロス・エンヴィ』と構造は近い気がする。
「はあっ!」
その間に氷彗さんが人型エネミーに斬りかかった。
ただ相手も馬鹿ではないので、ガードを固めて氷彗さんの攻撃を無力化している。6体結集の力を打ち砕くのはノーガードで油断している相手に一撃を叩き込む必要がある。
なら……この素晴らしき姉たちを信じて、私は……!
「『透過結界』」
壱与さんに教わった術、今ここで使います!
やっぱり太古のものを倒すには太古の魔法だよね。
幸い人型エネミーは氷彗さんに夢中で私が消えたことすら気がついていないみたい。
唯一ブラッディさんだけが私のことに気がついてくれた。そして優しく微笑んでくれている。成長したと思ってくれているのかな?
「風香、その精霊は風を前に飛ばせる?」
「もちろん。やってみる?」
「頼みたい。私を運んで欲しい」
「わかったわ」
ブラッディさんはまっすぐ飛ぶらしい。
なら私は迂回して、その時を待つ!
ブラッディさんが助太刀に入り、人型エネミーの方も余裕がなくなっているようだ。元から魔力を吸われているせいでろくに動けていないのが伝わってくる。
氷彗さんは氷の剣で、ブラッディさんは中距離の予定だったけど血の剣で近接戦闘をしている。
私はそれに追われている人型エネミーの後ろにぴったりとついた。もちろん、透明だから誰に見られているわけでもない。
そして人型エネミーの白い背中に、私の魔力で作った桜の花びらを0距離で当てた。
「『桜花一閃』」
ここだとばかりに叫び、私の魔法を撃った。
当然0距離かつ透明な私からの攻撃を予測できるはずもなく、人型エネミーはノーガード状態でその攻撃を甘んじて受け入れるほかなかった。
人型エネミーの腹にはぽっかりと桜の花びらの形をした穴が空いている。そのまま力無く、人型エネミーは倒れた。
「愛梨……! あなた……」
「へへ、どうですか? 氷彗さん」
やっと私、戦いってものが何なのかわかった気がします。




