071 アイドルレッスン
「はいワンツー、ワンツー。氷彗さん、笑顔忘れてます」
「そ、そんなこと言われても……」
訓練室の端の端。
私たちは変身状態でアイドル広報作戦の練習に取り組むことにした。
予想通りというべきか、夜伽さんと茜さんはすんなりとダンスの基礎やアイドルの基盤である笑顔を身につけてくれた。
……が、こちらも予想通り、我が姉の氷彗さんが一番に苦戦している。
ダンスはぎこちなく、ダンスに集中させすぎると笑顔を忘れる。典型的なアイドルに向いていないタイプだった。
「まず動きを止めてから笑顔の練習をしましょう。はい氷彗さん、笑ってください」
「こ、こうかしら?」
氷彗さんは人を小馬鹿にするような笑顔を作ってみせた。
なるほど、こういう笑顔も悪くない。どこか新しい扉が開いた音がしたような気もする。
だけどさすがに公務員たる魔法少女の広報で国民の皆さんに新しい性癖を植え付けるわけにもいかない。
ここは万人受けする笑顔に矯正する必要があると判断した。
「いつも私には笑顔を向けてくれるじゃないですか。それを他の人にもあげるだけですよ」
「そ、それは愛梨が特別だからよ。それ以外に笑顔なんて振りまけないわ」
「やーいやーい。氷彗の劣等生〜」
「『氷塵……』」
「あぁ! 喧嘩しないでください!」
確実に夜伽さんに向かって即死クラスの魔法を打とうとしていた。煽り耐性も低い……。
「ねぇ愛梨、アタシ達の衣装は魔法少女のままでいいの? 統一感がないというか……」
「そうですね、特に夜伽さんには着替えてもらいたいところですが、まぁ本当のアイドルとの差別化を図るためにもこのままでいいと思います」
なんだろう、アイドル広報のことになると頭が急に回りだす! 可愛い女の子を活かすことに向いているのかも?
「夜伽さんと茜さんはダンスの連携を深めてください。氷彗さんは私と笑顔の特訓です」
私はスパルタに氷彗さんに笑顔を仕込んだ。
こんなことする暇があれば訓練をしろと言うのもわかるけど、これもまた一つの姉妹の仲を深める活動の一つだと思う。
もしかしたらいつの日か、壱与さんが提言していたマギア・ムーンを重ねて魔法少女の本当の力を引き出すということも可能になるかもしれない。
訓練室での合同レッスンを終え、私と氷彗さんで部屋に戻る。
シャワーを浴びてさっぱりすると、氷彗さんはナチュラルな笑顔でお話をしてくれた。
それそれ、それだよ……と言いたい。でもこの時間だけは氷彗さんを独占したくて、余計なことは言わずにいた。




