067 魔龍
私が駆けつけた時にはすでにアビーと魔龍は命の奪い合いを始めていた。
生で魔龍を見るのはもちろん初めてだ。
ほうじ茶色のサイドテールに、新緑の瞳。そして何より印象的なのは好戦的なギザ歯である。
魔法少女衣装は青いチャイナドレス。一目で中国の魔法少女だとわかる衣装だった。
「また雑魚が増えたのね。まっ、誰が来ようと変わらないけど?」
流暢すぎる日本語で話してきたことに驚いた。まぁ隣国だからそういうこともあるか。
魔龍はいわゆるメスガキというやつだ。14歳のくせによくそこまで威張れるものだと感心する。
菊と優が到着してもその態度に変わりはなく、あくまで何人を相手にしても問題はないと言わんばかりに笑っていた。
アビーはすでに加速体制に入っており、魔龍の周りを風を起こしながら飛んでいた。
ただ私と模擬戦をした時とは違って、あまりにも慎重な気がする。それだけ隙がないってことなのか。
「う〜ん……えいっ!」
「what!?」
魔龍はおもむろに手を伸ばし、超高速で飛ぶアビーの足を掴んでしまった。
「速い気でいた? ごめんね〜、あたしの溢れる魔力には感知センサーが付いていてね。ハエみたいに飛ばれると煩いから掴んじゃった」
「ぐっ……」
アビーは何とか脱出を試みるも、魔龍はその手を離しはしない。なんという怪力……
「おいヤベェぞ。アタシらも行くぞ!」
「落ち着いて菊ちゃん。アビーさんならきっと大丈夫だから」
いや、大丈夫じゃない。だからといってこちらから近づけば殺してくださいと言いに行くようなものだ。
「『ブラック・ウェディング』」
私は黒いタキシードを着たゾンビの兵団を生み出した。これなら自身を傷つけることなく、アビーの援護に回れる。
「うわキモっ! ってか臭い! なんかこう……ニンニクと牛乳をミキサーで混ぜたみたいな匂いがする!」
具体的にタキシードゾンビの匂いを解説してくれた魔龍。そんな匂いがするんだ……なんか少しだけショック。
「邪魔だし臭いからどっか行け!」
「なっ!?」
魔龍はアビーを掴んでいる手とは逆の手を薙ぎ払ってタキシードゾンビ軍団を吹き飛ばしてしまった。
ただ手を振っただけでこの威力……さすが最強と呼ばれるだけはある。
「はい、じゃああんたも、よっこいしょ!」
アビーを引っ張り上げ、魔龍は顔面に拳を打ち込んだ。
アビーの端正な顔は鮮血に染まり、そのまま海へと落ちていった。
アメリカ最強の魔法少女を一撃で仕留めた……私たちは舐めすぎていたのかもしれない。
中国の歴代の皇帝が、自らの力を示すためにシンボルとしてきた龍をその名に冠するこの少女を甘く見積りすぎていた。
「よっわww えー、アメリカって強いんじゃなかったの〜? 拍子抜け」
手をぷらんぷらんとさせて、心底つまらなさそうな顔をした魔龍。
そして首を傾け、私たち3人の方を向いた。
「きゃあ!?」
「うあっ!?」
その瞬間、後ろに立っていた優と菊が呻き声をあげた。
振り返るともう2人はそこにはいなくて、アビー同様海に落下していた。
「神様もさー、残酷だよねぇ。こんなにパワーバランスを崩してくれちゃってさ」
本当に……本当に魔法少女を育てる必要なんてあるのだろうか? ねぇ、伊月さん。
この女がいればどんなエネミーが来ようと対策できるのではないか。そう思わずにはいられない。
「じゃあね、日本の可愛い魔法少女さん」
私もやられる! と覚悟して目を瞑った。
……しかし、なかなか衝撃は私に伝わってこなかった。
「ずいぶんと勝手な真似をしてくれるものね」
忘れられない声が耳に届き、ハッと顔を上げた。
そこには水色のポニーテールを風に靡かせ、魔龍の魔力を凍結させる姫がいた。
「ん? 強そうかも!」
「あなたと戦う気なんてない。ただ……有馬皐月を傷つけたことの報いだけは向けてもらうわ」
そういってここに現れた魔法少女、山吹さんは魔龍のおでこを指で弾いた。




