064 不穏な電話
「う〜〜〜〜ん……………」
訓練が終わり、氷彗さんとの共同部屋に戻ってきて私は唸った。
「愛梨、どうしたの?」
2人きりになると笑顔を見せてくれる氷彗さん。さっきまであんなに真剣な顔で戦っていたのに、今向けてくれるのはキラキラした笑顔だ。ギャップがすごい。
「氷彗さんと茜さんの模擬戦を見ていてその……結界術について色々考えてしまいまして」
「なるほどね。まぁそういう悩みが出るのは承知で模擬戦をしたから想定内だわ」
そう言いながら氷彗さんは椅子を寄せ、私の頭を撫でた。
そういえば氷彗さんはよく私の頭を撫でる。そういうの好きなのかな?
「ずっと言いたかったけど、愛梨は壱与の力を受け継いで生まれたかもしれない。でも愛梨は愛梨よ。私の大切な妹よ。忘れないで」
そう言って氷彗さんは私を胸元に抱き寄せた。
氷彗さんの香りが鼻腔をくすぐり、いい心地がする。
「……あの氷彗さん、私たちの関係って……」
「ハッキリさせたい?」
その問いには即答できなかった。
ハッキリさせる。それはつまり恋人になるのかならないのかということだ。
今の氷彗さんを見ている限り、私と恋人になってくれる気がする。ただ……胸のつっかえが気になる。
自問していること、「私は氷彗さんと恋人になりたいのだろうか」ということ。
氷彗さんと寝てわかった。私は氷彗さんが好きだ。氷彗さんも、私のことが好きだ。
でもじゃあ恋人になるかと言われると、すごく難しい線上にいる気がする。
特に氷彗さんは大きな問題を抱えている。元妹たちがゾディアックにいるという問題だ。
そしてゾディアックにいる元妹3人は氷彗さんに明確とまでは言わないまでも殺意に近いものを見せていた。そして私は3人が氷彗さんに刃を向けるのなら私も殺意で返すことを厭わないと確信している。
「……難しいわよね」
「問題が解決して、綺麗な身になってから……というのではダメですか?」
「それでいいわ。さて……」
pipipipipipipipipipipi!!!!
なんの通知音も設定していない氷彗さんのスマホに電話がかかってきた。
画面を覗くとどうやら非通知らしい。迷惑電話か、と思って出ないだろうなぁなんて安心していたら氷彗さんは電話に出てしまった。
「もしもし?」
『Hi!, this is Abby Wamblet(ハ〜イ。アビー・ワブレットよ)』
氷彗さんはスピーカーにして、私にも聞こえるようにしてくれていた。
アビー・ワブレット……アメリカで1人しか選ばれないクラス6の魔法少女。100人を超えるクラス5をまとめ上げるまさに大将だ。
「Did you need me? (何の用かしら?)」
氷彗さんは臆さず英語で応答した。素直にカッコいい。
『Magia girls's war begins. I'm looking forward to it. (魔法少女の戦争が始まるわ。楽しみね)』
「Don't be silly. We do not go to war. (ふざけないで。私たちは戦争なんかいかないわよ)」
『Can you say that word even when the war begins? (あら、その言葉、戦争が始まっても言えるのかしらね?)』
何を言っているのかはあまりわからない。でもとにかく戦争について話しているような気がするのは確かだ。
「War is a waste of power. Focus on defeating your enemies. (戦争なんて体力の無駄よ。エネミーを狩ることに集中しなさい)」
『We are looking at the future. (私たちは未来を見ているのよ)』
そう言って電話は切られた。
氷彗さんは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
まるでこの先の未来に最悪なものが待っているのを予期しているような顔だった。




