063 師vs姉
「さぁ〜て、やろっか」
「いつでもどうぞ」
魔石を構える茜さんと、氷の剣を構える氷彗さん。
結界術の師匠としては茜さんに勝ってほしい。ただ桜坂愛梨としては姉であり、正式な恋人未満ではあるもののそれに近しい関係の氷彗さんにもちろん勝ってもらいたい。
ただそんな「どちらが勝つか」なんてことよりも、まずは「どんな戦いが繰り広げられるのか」が気になって仕方がない。
「よっ!」
茜さんは魔石を4つ投げた。即座に魔力を流して繋ぎ、ポイントとしての役割を果たさせる。
いま私が躓いているポイントをいとも簡単にやってのけてしまった。さすがクラス6だね。
「……ハンデのつもりかな? 今の瞬間、一撃与えようと思ったらできたよね?」
「存外嫌な性格をしているのね。腹に隠した魔石、近づいてきたら何かしらが発動するように仕込んでいるんでしょう?」
「バレてたか」
そうか……何も結界術師だからって結界術だけに固執する必要はないんだ。
本当にこの模擬戦にはヒントが転がっているなぁ。
空中には魔石が4つ。すでに魔力が繋がった状態で待機している。
形勢的には圧倒的に茜さんの方が有利に見える。
けど……それだけで氷彗さんがころっと負けるとは思えない。きっと何か策があって、逆転のための動きを考えているはずだ。
「『屠殺氷塵』」
氷彗さんがポツリとつぶやいたその瞬間、氷彗さんの手のひらに浮かぶ氷のキューブが細胞分裂のように割れ始め、大量の氷の塵になった。
あれは手数も範囲も広くて多い魔法。結界術で防ごうにもすり抜けた氷の塵が茜さんに襲いかかるはず。
この状況、どう切り抜けるんだろう。
「余裕の表情ね」
「さぁ? どうだろ」
氷彗さんは氷の塵に襲いかかるよう命令した。その瞬間、塵たちは輝きを発しながら茜さんへと向かう。
「『紅蓮結界:塹壕』」
魔石一つ一つから赤くて薄い魔力の波が生まれ、氷の塵を弾き落としていく。
まるで下へ下へと命令するように、赤い魔力は流れを重力に任せている。まるで滝だ。
「『氷塵集結:ニヴルヘイム』」
氷彗さんの叫びで、氷の塵は再び集結した。大きな槍となった氷は茜さん目掛けて突き進む。
氷彗さんの大技だけど、茜さんは私にもわかるくらい余裕の表情だ。
「ほっ! 『立体結界術:紅壁』」
茜さんは残りの4つの魔石も投げ、8つの魔石で立方体を作ってしまった。
それがニヴルヘイムをも包み込み、最後には爆発させてしまうほどの威力をもって防御に成功した。
「さぁ攻めるよ! 『立体結界術:紅爆』」
範囲の広がったことにより、氷彗さんに逃げ場所はなくなった。
このままでは爆破に完全に巻き込まれる……!
ボンっ! と弾けた瞬間、氷彗さんは爆心地にいた。つまりこの勝負、茜さんの勝ち? って思った。
しかし次の瞬間、赤い煙の中から出てきたのはあちこちがヒビ割れた氷のフルアーマーに包まれた氷彗さんだった。
「うっ!?」
「仕込みはもうないようね。はあっ!」
一瞬で加速して茜さんの懐に入り、剣を突き刺した。
茜さんはホログラム状に点滅し、負けを悟った顔をした。
「負けかぁ。何そのフルアーマーは」
「『氷騎士』という魔法よ。動きは鈍くなるけど、防御に関しては堅牢だわ」
「あれで鈍いねぇ……ね、動きにはついていけないのがわかるでしょ? 愛梨」
結界術の可能性と限界。その2つを同時に見ることができました。
私は……どうすればいいんだろう。




