006 氷彗という人
魔法少女センター、食堂。ここは右を見ても左を見ても魔法少女だらけで、眼福といえば眼福だ。
どの魔法少女も姉妹システムによって姉妹契約を結んだ魔法少女とともにご飯を食べている。……私以外。
あの冷たい言葉の後、氷彗さんは私を一切の躊躇なく斬り続けた。被害者側から言わせてもらえば100回は斬られたと思う。
それだけ斬り続けて満足したのか、初日の訓練という名の一方的な暴力は終了した。
やっとご飯の時間だ……と訓練室の時計を見て思ったんだけど、氷彗さんは「一人で食べるから。あなたも勝手にどこかで食べていれば?」と、これまた冷たい言葉で私を突き放した。
どこの席を見ても姉妹で仲良く食べている姿が映るから、なんだかナーバスな気持ち。そんな百合空間に割って入るような真似はできないから、ぼっち飯を極めるしかなさそう。
諦めてとんかつ定食を選んでから席に座った。魔法少女は公務員扱いなので、食堂で食べる限りは食費は税金で賄われるらしい。
「いただきます……」
こんなに覇気のないいただきますは初めてかも。家でも一人だったけどここまで辛くはなかった。それは一人だってわかっていたから。今は氷彗さんっていう姉がいるのにぼっち飯だから、心にダメージを負うのは必然だった。
6切れあるとんかつを2切れ食べた頃、ポンと、私の肩に手が乗ったのがわかった。
「氷彗さん!?」
そう叫んで振り返ると、そこには知らない女性が立っていた。氷彗さんじゃなかった……まぁそうだよね、期待しすぎたか。
「一人なの?」
声が高くて、クリーム色の長い髪がふわふわで、泣きぼくろがセクシーな女性に声をかけられてしまった。その後ろには私と同じくらいの年齢に見える黒髪ショートの子が立っている。
「あ、はい。お姉さまはあまり人と接するのが苦手な人みたいで」
「あら、その言い方だと噂の新人さんかしら?」
「噂の?」
「えぇ。マギア・ムーンを訓練なしで使ってみせた大物新人が入ってきたって、こっちでは評判よ」
えぇ……大した事なんだろうけど、個人的にはそこにロジックがないから持ち上げられても困る。
「わ、私なんて大した事ないですよ」
「それに噂のタネはもう一つ。あの氷彗ちゃんが姉なんでしょう? さっき『氷彗さん!?』って期待を込めた感じの声を出していたものね」
「うっ……そ、そうです」
なんでこの人には私のこと、話してもいないのにポロポロと漏れていくんだろう。勘の鋭い人だ。
「よかったら一緒に食べましょう。あなたとお話ししたいこともあるしね。幸もいい?」
「はい。風香お姉さまがそうおっしゃるなら」
何気ない姉妹のやり取り。それも憧れの対象だったから、素直にいいなぁと思ってしまった。
風香お姉さまと呼ばれた人は私の向かい側に座り、幸と呼ばれた同い年くらいの子はその隣に座った。
「じゃあ自己紹介からね。私は中谷風香、20歳でクラス5の魔法少女よ」
「私は吉田幸。今年の魔法少女試験で入ったばかりの15歳なのです」
あ、じゃあ私が落ちた試験に受かった子なんだ。じゃあ私に対しては少なからず疑問に思うところがあるかもね。特例扱いで魔法少女になったわけだし……。
そんな私の懸念を察してか、風香さんは優しく微笑んで私を励ましてくれる。
「少なくとも幸はあなたのことを気にしていないから大丈夫よ。むしろ幸は尊敬しているんでしょう?」
「はい。まだ私は変身できていないので……訓練なしで変身できた君が羨ましいのですよ」
このやり取りで、私はまだ自分が名乗っていないことに気がついた。「あなた」とか「君」呼び出しね。
「申し遅れました。桜坂愛梨です」
「うん。よろしくね、愛梨ちゃん」
「同期としてよろしくなのです、桜坂さん」
風香さんと、幸ちゃんね。仲良くしてくれそうだし、ちゃんと名前を覚えないと!
「さて、愛梨ちゃんが気になるのは氷彗ちゃんについてかな?」
「知っているんですか? 氷彗さんのこと」
「えぇ。だって私、氷彗ちゃんの元姉だもの」
へぇー、氷彗さんの元姉……ってええっ!?
「元姉!? 氷彗さんの!?」
「別に不思議なことではないのです。山吹さんは17歳、お姉さまは20歳なのです。年齢的には妥当かと」
「た、たしかに」
でも驚いたなぁ。そんなたまたま氷彗さんの元姉に話しかけられるなんて。
でもこれはチャンス! 元姉なら氷彗さんと打ち解ける方法を知っているかも!
「一人で食べているところを見ると、まだ氷彗ちゃんはトゲトゲしているのね」
「昔からあんな感じだったんですか?」
「えぇ。『弱い魔法少女は必要ない』。それがあの子の口癖だったわね。そしてたった1年でクラス6になってみせた。本当に天才よ、あの子は」
風香さんは氷彗さんの実力をベタ褒めしている。でも隣にいる幸ちゃんは問題点を口にした。
「ただ、『お姉さま』としては最悪だったと聞くのです。なんでも今まで妹にしてきた下級魔法少女3人を例外なく引退に追い込んでいるとか」
「い、引退に……」
そういえばさっき氷彗さん言ってたっけ。『1ヶ月以内に私にダメージを与えなさい。そうでなければ魔法少女を辞めることね』って。それで何人も辞めさせてきたんだ……。
「でもね、きっとあの子も心の奥底では寂しい気持ちを持っていると思うの。だから愛梨ちゃん、氷彗ちゃんの心の氷を溶かしてあげてくれる? 今までの子達はすぐに辞めちゃったけど、愛梨ちゃんはもう変身できるイレギュラーな子だから期待しちゃうの」
「……わかりました。私、氷彗さんの氷を溶かしたいと思います。だってあんなに美人なのにずっと一人なんてもったいないですよ!」
「ふふっ、そうね」
風香さんも笑ってみせた。その顔はすっごく優しい。いつか氷彗さんにもこんな笑顔、向けられたいなぁ。
私はそう思いながらとんかつの最後の一切れを口へ運んだ。
風香さんに「今日からの共同生活、頑張ってね」と背中を押されて送り出された。本当に面倒見のいい人だと思う。
そして共同生活。そう、姉妹システムにより魔法少女は姉妹で一部屋を共有。要するにルームシェアをするのです!
魔法少女センターに隣接された寮に入って、受付で自分の部屋番号を確認する。A棟5階1号室。A501という部屋らしい。
エレベーターで5階に上がって、1号室の前で立ち止まった。
……氷彗さん、もういるかなぁ。
氷彗さんとのルームシェア生活。怖さもあるけど、不思議とワクワクの方が優っていた。美人な氷彗さんのいろんな顔、見られるといいな。
なんて思ってドアを開けると、ちょうど部屋の中にあったドアも同時に開いたみたい。
中から出てきたのはもちろん氷彗さん。しかし……
「えっ?」
「……ッ!」
氷彗さんはバスタオル1枚を新雪のような肌に巻いただけの姿で、そこに立っていた。
着痩せするタイプと確信が持てるほどに盛り上がった双丘に視線が集まり、どうしてもガン見してしまう。太ももは完全にあらわになっており、細いながらも力強さを感じる。そんな太ももには拭き残しと思われる湯が一線、妙に生々しく這った。まさに湯上がり美人の太ももである。
なんて分析してる場合じゃない!
「し、失礼しました!」
私は一通り氷彗さんの身体を楽しんだ後、ドアを閉めた。
……今日、興奮で寝れないかもしれない。そんな情けない言葉が頭を巡るのでした。




