059 アメリカの魔法少女
不気味なほど、静かだ。
沖縄県上空。私は静かな空に座し、とある魔法少女を待っていた。
といっても、これから遊びに出かけるとかそんな甘ったれた話ではない。今から行われるのは死闘だ。
耳に挿入したワイヤレスイヤホンから仲間の声援が聞こえてくる。
『おら気合い入れろよ皐月ー』
『さっちゃん、頑張ってね』
私、有馬皐月を応援するのは宝塚菊と安田優。ともにゾディアックに所属する魔法少女の同志だ。
微かな安心感にホッとした瞬間、風が揺らいだ気がした。
「来るっ!」
「too late!(遅い!)」
風が一閃横切ったと思った瞬間、私の漆黒のウェディングドレスが引き裂かれた。
これが世界最速の魔法少女、アメリカのクラス6、アビー・ワブレット。
規格外の速さだ。目で追うことすらできなかった。
「Next!(次よ!)」
どこからか声が聞こえ、もう一度風が横切って今度は私の右腕を少し掠めた。
「うぐっ……」
『おいおい、大丈夫かぁ?』
『無理しないでねー』
一本薬を打ってもなお視界に捉えることすらできないか。なんという強さ、これがアメリカ唯一のクラス6。世界最強のクラス5大隊を纏める隊長なだけはある。
「『ケルベロス・エンヴィ』」
こちらも出し惜しみはしない。
炎でできた3つ首の犬は周囲に敵がいることを察知し、警戒を強めた。
『ケルベロス・エンヴィ』は自分で攻撃することにも、攻撃を受けた後の二次攻撃にも長けた優秀な魔法だ。どう転んでも私が主導権を握れることに間違いはないはず。
「too optimistic(甘いわよ)」
アビー・ワブレットは臆すことなくケルベロスの前に姿を現した。ただし、その目は自信に満ち溢れている。
「『Hurricane』(ハリケーン)」
強大な風に打ち上げられ、ケルベロスは強制的に高度を上げられた。
さらなる上空では風が乱れ吹き、ケルベロスが切り刻まれる姿をまじましと私の瞳に映してきた。
「Checkmate」
「……参った」
いつの間にかアビー・ワブレットの風に囲まれていた私。
このまま無理に戦闘を続けたらズタズタに切り刻まれるのは想像に容易かった。
私とアビーは地上の無人島に降り、伊月さんやアメリカの国防総省の偉い人と顔を合わせた。
アビーは思っていたよりも綺麗な顔立ちで、ウェーブのかかった金髪と碧眼。そしてナイスバディはステレオタイプなアメリカ人女性のイメージそのものだ。
「どうですアビーさん、日本の魔法少女は」
「ンー、だめネ。too weak(弱すぎる)」
「あはは、辛口ですね。これでも一応ドイツの魔法少女連隊、中国最強の魔龍と呼ばれる魔法少女らにも勝つことを想定していますが」
「Don't worry. I'm yourside(心配ないわ。私があなたの味方だもの)」
「心強いです」
伊月さんは満足げだ。
その後アビーはホテルへ戻ろうとする。その時、私の頬にキスをして去っていった。
「ちゅ」
「なっ!?」
「Haha! 挨拶デース」
くっ……距離感が掴めない。
日本語の話せる国防総省の人と伊月さんの会話が始まった。
「さて、ではもうすぐ開戦ということでよろしいですね?」
「イエス。でもよろしいのですか? 日本では戦争に反対する声が根強いと聞きます。特に魔法少女が出てこないのでは話にならないのでは?」
「そうですね。ルナティックアーミーと称して、私に反対する勢力もいます。頭の痛い話ですが……さほど問題ではありません。いざというときはゾディアックだけでもなんとかなりますしね」
どうやら本当に魔法少女で戦争を起こすみたいだ。
山吹さんを筆頭としたルナティックアーミーとやらが結成され、声明を出した頃から伊月さんは国営魔法少女への興味を失っていた。
やはり最前線で戦うのは私たちのようだ。
国防総省の人との打ち合わせを終え、伊月さんはようやく私たちの方を向いた。
「さて、一度帰りましょうか」
「あ、あの!」
「なんですか?」
優しい笑顔だが、奥に怖いものを感じる。考えすぎかもしれないけど。
「アビーと山吹さん、どちらが強いんですか?」
「難しい質問ですね。ただまぁ私から言わせれば……」
一度溜め、伊月さんは再び口を開いた。
「山吹隊員は世界で一番強くなる。そんな気がしますねぇ」
……どうやら私の復讐への道はまだまだ遠いようだ。




