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058 次のあなたを生まないために

 愛知に戻った私は急いで病院へと駆け込んだ。


「すみません。また茜さんとお話しさせてください」

「……何も変わらないと思いますよ?」

「大丈夫です。変わります」


 私の目を見て、看護師さんは通してくれた。

 茜さんの病室に入ると、まだ茜さんはここにはいない妹と対話しているようだった。

 同じだ……伊月大臣も永眠しているお姉さんに話しかけている。それと、同じだ。


「茜さん! お話しがあります!」

「またアタシにお客さんだ〜。七海、少し待っててね」


 今度は話に応じてくれるみたいだ。相変わらず七海さんという人が見えているみたいだけど。


「私には好きな姉がいます。氷彗さんです。ご存知ですか?」

「氷彗……あぁ! アタシが入院する前に話題になった天才の子かぁ〜。そっか、もう上位魔法少女になったんだね」


 氷彗さんのことも噂に聞いた程度か。つまり2年近く入院しているってこと?


「私は氷彗さんのこと、尊敬しているし敬愛しています。大好きです」

「アタシたちと同じね七海。大好きだもん」


 茜さんはベッドの下から抱き枕のようなものを取り出して抱きしめた。それを見てゾッとする。あれが茜さんにとって、七海ちゃんになっているんだ。


「目を……覚ましてください茜さん! それは本当に七海さんですか?」

「何を言っているの? 変な子ね、七海」


 ここで引き下がった方がいいのかもしれない。

 そう思っているのは事実だ。

 良い夢を見せてあげたままの方が茜さんにとっても幸せだろうし、私の心も痛まない。でも……このまま夢に取り憑かれていていいのだろうか。

 もし伊月大臣のやり方にストップをかけられなかった時、戦争が起こったらきっとクラス6の茜さんには強制的に大人がデリカシーも無しに七海さんのことを打ち明けるだろう。

 そうしたらきっと……この人の心は壊れてしまう。


 私がここで茜さんを引っ張り出したとして、それでも茜さんの心が壊れないと断定はできない。

 なら私は……どうすればいいの?


 悩める私。そんな私の肩に、ポンと手が触れた。

 この優しく包み込んでくれるような安心感のある手。間違いない……


「ひ、氷彗さん……」

「やっぱり、ここにいたわね」


 頼りになる姉、氷彗さんがここに立っていた。

 氷彗さんは私と茜さんを交互に見つめ、難しそうな顔をした。


「羽田茜。私は山吹氷彗。聞いたことあるかしら?」

「あなたがあの天才ね。もうクラス6?」

「えぇ、そうよ。あなたがそうやって過去に囚われている間にね」

「ちょ!? 氷彗さん!?」


 どストレートに茜さんに現実を迫った氷彗さん。でも氷彗さんは私を見て、笑った。

 そうか……氷彗さんは引き受けてくれたんだ、茜さんに現実を見せるという辛い役目を。

 だから私の役目は、そのケア。尖った氷彗さんの言葉を丸めること!


「落ち着いて聞きなさい。あなたの妹、武田七海は1年半前に死んだのよ」

「それでも七海さんの意思は生きています。七海さんが見たいのは今の茜さんの姿ではありません!」

「立ち上がりなさい。その抱き枕を無機物だと理解し、現実へ帰ってくるのよ」

「今世界では魔法少女の危機が迫っています。七海さんのように亡くならなくていいように、茜さんのように苦しい思いをしなくていいように、力を貸してください!」


 私と氷彗さんの怒涛の声かけに、茜さんは耳を塞いでしまった。


「何よ! 何なのよ! 七海も怖がって固まっている! 出て行って!」

「聞きなさい羽田茜!! これは第二のあなたを作らないための話よ」

「そうです。もう2度と、悲しみで失意に陥る魔法少女が生まれなくていいように私たちは立ち上がるんです」

「あ……あぁ……」


 茜さんは抱き枕を見つめ、大粒の涙をこぼした。

 きっと、抱き枕が七海さんでなく、ただの無機物として瞳に映ったんだろう。


「ショックなのはわかる。私だって愛梨が死んだら泣くわよ。何日だって泣いてやるわ。でもそこでクラス6が止まっていたら次の自分を生み出すことになる。私はそれがもっと怖いわ。あなたもクラス6なら立ち上がりなさい」

「うっ……ふぅっ」


 泣き出してしまった茜さん。現実が見えて、深い悲しみに襲われているんだ。

 私はそんな茜さんに寄り添いたくて、そっと近づいて手を握った。なんか後ろから嫉妬のオーラを感じるけど、今は気にしないことにする。


「茜さん、あなたの力が必要です。もう2度と姉妹を失う魔法少女が出なくていいように、協力してください」

「………………今日は帰って」


 それだけ呟いた茜さん。私たちは目を合わせ、病室から出ることにした。


 寮への帰り道、氷彗さんは私の頭に軽いチョップを入れてきた。


「な、なんですか?」

「他の女の手を握った罰よ」

「えぇ……」


 思ったより嫉妬深い。

 まぁそれだけ愛されるようになったとポジティブに受け取ろう。

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