055 結界術を学びたい
なんだか距離が近い氷彗さんにも慣れてきて、日常が戻ってきた気がした。
だからこそ来るべき時に備え、訓練を怠ってはいけないと氷彗さんはいつも口にしている。
デレてもカッコいい氷彗さんに羨望の眼差しを向けつつ、最近の自分に落ち込む。
私はなんとなくだけど、成長できていない気がする。
壱与さんの力を受け継いでいるからすぐに魔法少女になれただけで、それ以降は特筆するような能力も見られない。
壱与さんが結界術に長けていたから私もできるかな〜って思ったけど、結界術ってなんなのかよくわかっていないからイメージもできない。
「氷彗さん、結界術ってどういう魔法ですか?」
「壱与の言葉が気になり始めた? そうね……結界術はずいぶん前には使われていたみたいだけど、近年では使用者は減っている。使っているとすれば……」
「……すれば?」
「いや、考えても無駄だったわ」
「えー! 教えてくださいよぉ」
「うっ……ま、まぁクラス6にいるのよ、結界術を使う人が」
私が主に上目遣いで氷彗さんにおねだりをすると、割と簡単に折れてくれることに気がついた。
それを知っててやるって、なんか小悪魔みたいだね。
それにしてもクラス6かぁ。夜伽さんにですら手を借りるのは嫌そうだったのに、それ以上に手を借りたくないってどんな人なんだろう。
「その人に会うことってできますかね?」
「……会うだけならね。ただ会話はできないわ」
「どうしてですか?」
「その人は病院でずっと意識が飛んでいるままだからよ」
なるほど、と合点がいった。手を借りたくないわけではなく、借りたくても借りられないんだね。
「何か重傷を負われたんですかね?」
「いや、精神的なものよ。その人は特に妹を大事にするタイプの姉だったんだけど、その妹が目の前でエネミーに殺されてしまった。そのショックで眠りのようなものから覚めないでいるわ」
「…………」
想像以上に悲しい出来事だった。
それは……立ち直るのは厳しいかもね。
「まぁ壱与の言葉は忘れて、愛梨の長所を伸ばしていくことがいいと思うわよ。愛梨はしっかりと魔法の土台があるんだから、伸び悩んでいても心配する必要はないわ。私が保証する」
氷彗さんは私を肯定して慰めてくれた。妹の私が言うのも変だけど、ちゃんと姉らしくなったと思う。
その言葉を残して、氷彗さんは先に訓練室に向かった。私も続こうと思ったけど、足が向かない。
……やっぱり私、結界術について知りたいかも。もしそれで強くなれて、氷彗さんの役に立てるのならこの選択肢を捨てたくはない。
だから私は訓練室ではなく、病院の方へ足を向かわせた。
芽依さんや美空ちゃんも元気かな。まずは2人に話を聞いてみよう。
芽依さんと美空ちゃんの病室に入ると、2人はずいぶんと回復している様子だった。
それを見てホッとするし、嬉しくもある。私たちの学校を守ろうとしてくれた人がまた元気になれるのは喜ばしいことだ。
「こんにちは、芽依さん、美空ちゃん」
「愛梨じゃん。久しぶり〜」
「久しぶりですね」
芽依さんははじける笑顔を私に向けてくれた。
「すみません、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「うんうんいいよ。なに?」
「お2人は病院にいるっていうクラス6の人、知っていますか?」
私がその言葉を発した瞬間、2人は固まってしまった。
何かまずいことを言ったかな……
「まぁ一応知ってはいる、かな」
「お姉さま!?」
知っていることを口にしたら美空ちゃんが驚いたように叫んだ。
「いいよ美空。愛梨は芯が強そうだし、きっとここで知らないふりをしてもどこかで真実にたどり着くでしょ」
「それはそうかもですが……」
「で、病院のクラス6……まぁ、羽田茜に何の用事なの?」
眠れるクラス6は羽田茜さんというらしい。
「私は結界術を学びたいんです。ただ結界術を使える人は少ないって氷彗さんから聞いて。それでもその羽田さんって方は結界術が得意だったんですよね? それなら羽田さんから学ぼうと……」
「なるほどね。すごく真っ当な理由で安心した」
どんな理由ならダメだったんだろう。
「羽田茜はこの病院の10階にいるはずよ。そこから先は職員に聞いて」
「はい! ありがとうございます!」
「最後に一つ。仮に起きていたとしても羽田茜を傷つけたりしないで。彼女はもう本当の地獄を見たんだから」
「……はい。もちろんです」
私は芽依さんと美空ちゃんに頭を下げて、10階へ向かった。
羽田茜さん……どんな人なんだろう。




