054 デレた
奈良へ行き、一週間が経った。
この間に何かあったかというと、特に何もなかった。
ただ、一つだけ特筆すべきことがある気がする。それは……
「ねぇ愛梨、このたまご焼き甘くて美味しいわよ」
「ねぇ愛梨、このアプリ? ってどう使うの?」
「ねぇ愛梨、悩みがあったらいつでも聞くわよ」
……………………なんか氷彗さんが、近い。
いやいいことだと思う。姉妹の距離が縮まる。いいことじゃない。
それに加えて表情もかなり豊かになった。まぁそれを見せるのは私にだけで、風香さんや夜伽さんへの態度や表情はいつもと変わりないんだけど。
「愛梨愛梨、テレビで猫の特集があるわよ! 観ましょう?」
「は、はい。でもちょっとお手洗いに行ってきます……」
トイレのドアを閉め、私は心の中で叫ぶ。
いや可愛いかよ!!!
なんで? なんで最近こんなに距離が近いの?
自分で問いかけておいてアレだけど、答えはたぶんあれしかない。まぁ、ヤッちゃった件でしょう。
でもそれでこんなに変わるんだ。なんというか……単純で可愛い。
トイレから出て氷彗さんの元へ向かうと、目をキラキラさせて猫の特集を観ていた。
「愛梨はどんな猫が好き? 私はマンチカンやアメリカンショートヘアが好きだけど」
「わ、私は種類とかじゃなくて性格で好きになりますね」
「例えば?」
「例えば……ツンケンしているけど、甘えたら超可愛い子とか」
「わかるわ。キュンとするわよね」
今してます。あなたに。
氷彗さんの中で私という存在はどうなっているんだろう。
出会った当初は間違いなく「邪魔な制度上の妹」だったはず。それから「妹」になり、いつしか「大切な妹」になったと自負している。じゃあ、今は?
その……百合えっちをしてしまった以上、「大切な妹」の域を超えているような気もする。
「あの、氷彗さん」
「なぁに? 愛梨」
「…………」
すっごい柔らかい表情で微笑みながら私を見てくれている。
すっごい可愛いし、すっごく嬉しいんだけど、出会った当初から変わりすぎて温度差で風邪をひきそうだ。
「どうしたの?」
「えっと……氷彗さんって私のこと、どう思っていますか?」
もう悩むのも疲れたから、ストレートに聞いてみることにした。
ちょっと恥ずかしいけど、これが一番効果的だと思う。
「どうって……大切な妹よ。でもそれ以上に私のことを包んでくれる、すごく安心できるパートナーだと思っているわ」
「パートナー!?」
パートナーとはどういう意味のパートナーだろう。
魔法少女の力という意味ではもちろん氷彗さんには遠く及ばない。だとしたら考えられるのは……
「こ、恋人的な意味でのパートナーですか……ね?」
自分で聞くのはとんでもなく恥ずかしいことを、勇気を振り絞って聞いてみた。
そしたら氷彗さんは袖で自分の顔を隠してしまった。
「あ、愛梨って積極的ね」
「そうですかね?」
で、答えは? と思ったけど、なかなか返ってこない。まさか照れてる? いやそれしか考えられない!
じゃあこの無言は肯定ということなんだ。そっか……私と氷彗さん、恋人的な意味でのパートナーになったんだ。
大切な妹以上、正式な恋人未満。
なんだか不思議な位置付けに落ち着いたような気がします。




