053 頭を抱える
頭を抱える。
私にしてみればかなり珍しい行動だ。だって、頭を抱えるような出来事に遭遇すること自体かなり稀だから。
裸で寝ている氷彗さんを見つめ、もう一度頭を抱えた。
その美しさに頭を抱えるわけじゃない。この美しい姉を勢いで抱いてしまったことに、頭を抱えているんだ。
これじゃ夜伽さんとあまり大差ない気がする。というか次に夜伽さんに会った時どうしよう。あの人挨拶するかのように「えっちしたー?」って聞いてくるし。
そうなれば顔に出やすい私が隠し通せるとは思えない。すぐにバレるだろう。
ことの重大さに、今さらながら気がついた。
ちなみに感想はというと、すごく満たされた気持ちは大きい。氷彗さんは私を拒むことなく、むしろ積極的に求めてくれた。蜜になると誓った私にとっては喜ばしいことだ。
思考が巡る中、ついに眠れる姫である氷彗さんが目を覚ました。
「……おはよう、愛梨」
「お、おはようございます」
その言葉だけを残して、氷彗さんはベッドから離れて白い下着を身につけた。
……思ったよりもあっさりしている。というか、達観している。
私のイメージ的には氷彗さんもお初だったはず。それなのにこんなに冷静でいるのは氷彗さんだからなのかな。
「さ、愛知に帰りましょうか」
「は、はい。そうですね」
特に感想も掘り下げることなく、氷彗さんは愛知に帰る宣言をした。
ホテルをチェックアウトして、変身してダッシュをしたらわりとすぐ愛知県に到着する。
魔法少女センターに到着すると、氷彗さんは真っ先に夜伽さんの暮らす寮へ向かった。
たぶん壱与さんから聞いたことを夜伽さんと共有するつもりなんだろうなぁ。
私も黙って後に続く。それを氷彗さんは拒んだりしなかった。
夜伽さんの部屋からはもうすぐで9時だというのに相変わらずあんあんと聞こえる。自分も今朝方までそうだったからか、不思議と恥ずかしさは倍増している。
氷彗さんの顔を伺いたいけど、なぜか頑なに表情を見せようとはしない。
氷彗さんは勝手に夜伽さんの部屋にずけずけと入っていく。
「夜伽ルナ、少し諸事の手を止めなさい」
「はーい。……ん? 氷彗なんか変わった?」
「……何のことかしら?」
「いつも私たちを見ると少しだけ視線を逸らしてた。でも今日はちゃんと目を見てるじゃんと思って〜?」
あれあれ〜? とニヤニヤしながら近づいてくる夜伽さん。氷彗さんと私の顔を見比べた。全裸で。
「あーー! ヤったな〜! わかるよわかる!」
「な、なんのことで……」
「そうよ。私は昨日、愛梨と寝たわ」
「うぇぇ!?」
隠そうとした私を裏切るように、氷彗さんはあっさりとカミングアウトしてしまった。
「ひゅーひゅー! おめでと〜」
「そんなことは置いておいて、はやく妹たちを撤収させて服を着なさい」
「はいは〜い」
氷彗さんはすごい落ち着きだ。なんでこんなに落ち着いていられるんだろう。
夜伽さんがしっかりと服を着て、椅子に座った。やがて風香さんもやって来て、伊月に反抗するための集団、ルナティックアーミー……略称ルナミの幹部クラスが集結した。
「さぁ、まずは昨日の成果から話します。工藤大臣の死の真相を追ったところ、私たちは卑弥呼の墓に辿り着きました」
卑弥呼の墓という文字に少なからず驚きを見せた2人。
ちなみに風香さんにも人型エネミーの話は通してある。ルナミの幹部だからね。共有しようということになった。
「卑弥呼の墓には壱与という卑弥呼の妹分がおり、私たちに人型エネミーやエネミーそのもの、そして伊月についての情報を与えてくれました。まず前提として、エネミーとは遠い異星から来た敵です」
「宇宙人ってこと?」
「まぁそう言っても差し支えないわね」
「スケールが大きくなってきたわね」
風香さんも夜伽さんも、思ったよりSFな話にびっくりしている様子だ。
「そして肝心の人型エネミーですが、これは卑弥呼が作ったものだと判明しました。その理由は異星にいるより強いエネミーに対抗するために、魔法少女を育てる目的があるようです」
氷彗さんから発せられた言葉に、黙るしかない風香さんと夜伽さん。
「でもおかしいわよね? 魔法少女を育てるために生まれたのに、どうして魔法少女センターを襲撃したの?」
「推測の域からは出ませんが、魔法少女の力を測ったのだと思います」
氷彗さんの推測は説得力があった。確かにその理由なら襲撃したのも頷ける。許せるものではないけど。
「伊月のこと、そして愛梨のことも判明しました。また追って伝えます。あと今日伝えたいことは一つ。マギア・ムーンについて。あれは半月状では完成形でなく、妹と姉が半月を繋げて満月にすることで魔法少女本来の力を手に入れられると壱与は語っていました。それを頭に入れておいてください」
氷彗さんは壱与さんから聞いたすべてを伝える意思を示し、今日の会議を終わりにした。
やっぱり相当ショッキングな内容なだけあって、夜伽さんも風香さんも頭を抱えている。
幹部たちも世界の真相に振り回されることになりそうだ。




