052 蜜になる
目を覚ますとそこはベッドの上だった。
久しぶりに病院に運ばれちゃったかと思ったけど、どうやら今日はそうじゃないみたい。
どう見てもホテルの一室だよね……。
「目が覚めた?」
「氷彗さん! ……有馬さんは?」
「帰ったわ。それより意識は大丈夫?」
「は、はい。たぶん気を失っただけなので」
有馬さんからの思ったより強い一撃により、かなり大きく吹っ飛んでしまった。その結果、気を失ってしまった。
氷彗さんを見ると、あることに気がついた。
「氷彗さん、腕が……」
そう、腕から出血しているのである。
切り傷だけじゃなく、火傷のようなものも見受けられる。
「あぁ、この程度どうってことはないわよ」
「そんなことありません! よく見せてください」
私は立ち上がって氷彗さんの腕をよく見つめた。
やっぱり遠目で分かった通り、切り傷と火傷がミックスした状態だ。跡に残っちゃうのは仕方がないのかもしれない。
「……消毒液を買ってきます。待っててください」
「いいわよそこまでしなくて」
「いえ。私がやりたいんです。やらせてください」
「愛梨……」
私は夜の奈良の街へ飛び出し、薬局でガーゼとピンセット、消毒液とばんそうこうを買ってきた。
氷彗さんは私に従って消毒を受けてくれる。
ガーゼを丸め、消毒液を染み込ませてピンセットで挟み、ぽんぽんと傷口に塗る。
「……ッ!」
「染みますか? 少し我慢してくださいね」
「……」
半分消毒を終えたくらいで、氷彗さんが私のことをじっと見つめていることに気がついた。
「えっと……どうしました?」
ガバッという衝撃が前面に現れ、私は後ろに倒れる。
幸いベッドが後ろにあったから怪我を負うことはなかった。でも結構危ないことをされた。
「氷彗さん、何をするんです……か……」
「うっ……ふぅっ」
氷彗さんは、泣いていた。
もちろん氷彗さんが泣いているところなんて初めて見た。
いつも気高く、高貴で、強く、美しい氷彗さんのイメージを彼女自身が崩すことはなかった。
でも今、氷彗さんは妹の胸に乗って泣いている。大粒の涙を、私に預けている。
きっとショックだったんだろう。自分のせいとはいえ、元妹に攻撃されることが。そして何より、剣を向けないといけないことが。
私は氷彗さんをそっと抱きしめた。
「本来こんな腕の傷では足りないのよ。もっともっと抉られるような傷を負って初めて彼女たちと釣り合うわ」
「はい」
「私だけ痛みから逃げていた。今も逃げている。愛梨という愛に逃げている」
「そうです」
「それがわかっていても、まだ逃げようとしている」
「いいんじゃないですか?」
「私の罪は……あの子たちから消えることはないのよ」
すべてを吐き出すように、苦しそうに泣く氷彗さん。
私はそれを肯定だけの言葉で抱きしめる。
私は最近思ったことがある。
この世界は、氷彗さんに残酷だ。
歳上にこんなことを言うのもアレだけど、氷彗さんはまだ17の少女。それになぜ世界の命運の一部を担わせているのか。
大人は敵対し、年上の周りのみんなは氷彗さんに任せすぎなんだ。
だから私は蜜になろうと思った。
氷彗さんにとっての、甘い蜜に。逃げ道に。
「私が一緒に背負います。氷彗さんだけで抱え込まないでください」
「あの子たちは私を殺す気でいるかもしれないのよ!?」
「なら私も同じです。氷彗さんを殺すつもりの人は、私が殺します。もし氷彗さんが万が一死ぬのなら、私も一緒に死にます」
「愛梨……」
「でもそうならないために私たちがいるんでしょう? 魔法少女同士で争わなくてもいいようにする。それが私たちのはずです」
「…………」
「まぁ今日のところは一緒にこのまま寝ましょう。氷彗さんのこと、全部受け止めますから」
「愛梨……あぁ、愛梨」
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翌朝。
私はベッドから起き上がり、隣を見る。
そこには美しい顔立ちの氷彗さんが、可愛い寝息を立てて寝ていた。
ただし、裸で。
……………………勢いに流されて、ヤッてしまった。




