049 満月の意味
「私っていったい何なんでしょう」
壱与さんから告げられた真相の数々。
氷彗さんに向ける笑顔も自分でわかるほどにぎこちない。
「大丈夫よ愛梨。あなたは桜坂愛梨。私の妹。それ以外の何者でもないわ」
氷彗さんは震える私を抱きしめてくれた。
冷たい人だと言われがちだけど、心には温かいものを持っている。
「氷彗、その通りです」
あっさりと壱与さんは肯定した。もっと「違います。あなたは運命の人です」とか言われると思っていたんだけど。
「愛梨はあくまで私の魔力飛ばしを受け継いだにすぎません。それによりほんの少し私の記憶や力が受け継がれていることもあるかもしれませんが、あなたは桜坂愛梨であり壱与ではありません。壱与はこの私だけです」
「他にもいろいろ最近気になっていたことがあるんですけど、いいですか?」
「はい。胸につっかえがあるのならなんでも聞いてください」
私はここ最近、自分の中でも違和感を覚えることが多くあった。壱与さんはそれを解決してくれる。そんな気がする。
「人が次に何を言うかなんとなくわかったり、私の魔力を吸った人が倒れたり、あと伊月さんっていう人がいるんですけど、その人を見た時に頭痛がしたりしたんです。何か壱与さんに関係はありますか?」
「人が何を言うかは私の力にはありません。単に愛梨が注意深くなったということでしょう。鬼力を吸った者が倒れたのは間違いなく私の影響です。この力をとある人物に取られぬよう、全身全霊をもって守るように力に結界を張りましたから。そして最後に伊月、ですか……」
伊月さんの名前に対して、壱与さんは黙ってしまった。
棺桶で眠ったままやり取りをするのがシュールに感じるほど長い時間を経て、もう一度壱与さんが話しかけてきた。
「伊月というものについて教えてもらえますか?」
「あ、はい。魔法少女たちを管理する魔法省って組織のリーダーです。若くてかっこいい風の男の人ですね。それ以外に知っていることは無いです」
「横から失礼するわね。魔法少女を軍事に使うことに賛成しているわ。その目的が世界征服なのか魔法少女を鍛えるためなのかはわからないけれど」
「氷彗さん? その言い方だと……」
「私には心当たりがあるわよ。壱与、さっきあなたはあなたともう一人が卑弥呼から力を貰ったと言っていたわよね? そのもう一人とは誰かしら?」
氷彗さんは疑問を払うために真剣に壱与さんに問いかけた。
「月様という方です。卑弥呼様の実の弟です」
「月って……まさか!」
「えぇ。間違いなく伊月のことでしょうね」
「なるほど、月様はご自身の体にお姉さまの鬼力を使うことを選ばれましたか」
ってことは伊月さんは約1800年も生き続けているってこと!?
そんなに長生きをして、卑弥呼さんに信頼されていたのに、なんで魔法少女を軍事化の道になんか進めるんだろう。
「あまり驚かないのね。伊月は魔法少女の軍事化に賛成していると言っているのに」
「……私は月様に対して元より疑問を抱いておりました。どこか危うい男性であると。どこかでその聡明さが爆発するか、恐れていたのです」
「なるほどね」
壱与さんは伊月さんに元から怪しいとは思っていたんだ。それを卑弥呼さんに相談できていたなら、どれだけ変わっていただろう。
「おや。申し訳ないですが私の貯めていた鬼力も1日に使える限界量に達しました。愛梨、氷彗。最後にあなた達から聞きたいことはありますか?」
「最後に一つ。工藤大臣は最後の言葉に『満月へゆけ』という遺言を残したわ。これ、どういう意味か知っているかしら」
「満月……なるほど、今の鬼女たちもそこまでは辿り着けなかったのですね。いいでしょう。お教えします。鬼力が変身するための半月板は持っていますね?」
「えぇ。今はマギア・ムーンと呼んでいるわ」
「それは一つでは成立していません」
「……どういうこと?」
「心を通わせた姉妹が半月と半月を繋げ、満月とする。さすれば鬼女の本当の力が引き出されます。それが鬼女の一番強い力です。忘れてはいけません。鬼女の力の源は憎しみではなく、姉妹を思い合う、愛です」
そう言って壱与さんは言葉を発することは無くなった。
今日の魔力を使い果たしたって言ってたから、たぶん今後ここに来たら情報がもらえるってことだよね?
私は氷彗さんと目を合わせる。
マギア・ムーンを合わせてみたけど、特に何も起こらなかった。
姉妹の愛、か。うん、きっといつか、私たちなら!
少しだけ、希望を持つことができるのでした。




