047 踏み出す
「この辺で気になるところ? う〜〜ん……あぁ、北通りのちょっとした山にある白いビルは不気味ね。なんでも窓がないのよ。それに景観を損なうからって理由での罰則も受けてないみたいだし。テレビの『なんやこれ珍10景』に応募したけど揉み消されたらしくてね。この辺じゃ不気味だからって近寄りもしないわよ」
「あ、ありがとうございます!」
恥ずかしさから逃げてアイスクリーム屋さんのおばさんに声をかけたんだけど、まさかの有力情報ありだった。
私はこの情報を引っさげて氷彗さんの元へ。お手柄の妹を、姉は褒めてくれるだろうか。
「氷彗さん! 有力情報ゲットです! なんでも北通りってところのちょっとした山に白いビルがあるらしいんですけど、そこには窓が一切なくて怪しいって近所の人で噂になっているらしいですよ」
「そ、そう。愛梨はすごいわね。連れてきて正解だったわ」
そう言って氷彗さんは私の頭にポンと手を乗せてくれた。イケ女にしか許されない頭ポンだ!
早速、私たちは北通りというところへ向かうことにした。魔法少女になって屋根伝いに歩くと当然のように目線が高くなるから、奈良の街を広く俯瞰できる。
そうすると見えた。不自然にちょっとした山がある! その中に白い建物も!
「……ここね。たしかに窓がなくて不自然な建物だわ」
入り口らしきところに氷彗さんは近づいて開けようとしてみる。しかし、当然のように鍵がかかっていて開く気配はなかった。
……が、ここで引き下がる氷彗さんではない。マギア・ムーンに手をかけて変身したと思えばなんと鍵穴に親指の腹を当て、そこから氷を生成して鍵を作ってしまったのだ。……世界的空き巣になれそう。
「さて、開いたわ」
「無茶苦茶しますね……」
もし中に人がいたらどうするつもりだったんだろう。
ちなみに中はだだっ広い白い玄関があって、その奥に琥珀色の壁が不自然に置いてあった。
なんだろう、あの琥珀色の壁は。ちょっと頭痛も強まったし……。
「触ったらダメよ!」
氷彗さんが大声で私に注意した。そして氷の塊を生成し、琥珀色の壁に投げつけた。
すると氷が当たった瞬間、火花が上がって氷を砕いてしまった。ひぇぇ……危なかったぁ。
「これは壁じゃなくて結界ね。どうやらここにヒントがありそうだわ」
「結界……つまり魔法ってことですか」
これを設置したのは魔法少女ってことだね。
『魔法少女よ、貴女に問います』
急に脳内に音声が届いた。透き通った声。でもどこか無理に作ったような声だ。
『私のお姉さまの墓地へ何用ですか?』
「お姉さまの墓地? 何者かしら、あなた」
『私は壱与。卑弥呼お姉さまの妹です』
「卑弥呼……ってあの卑弥呼ですか?」
日本史の教科書に載ってる、えっと……なんたら国の女王!
『その卑弥呼です』
あ、答えてくれた。
「あなたとは意思疎通ができるのね。最近ここを訪れた人はいるかしら?」
『50代くらいの女性が入りました。その後のことはわかりませんが』
そう答えた瞬間、私と氷彗さんは目を合わせた。間違いなく工藤大臣のことだ!
「それで? 結界を解くにはどうすればいいのかしら」
『卑弥呼お姉さまの墓に何の用か。それを聞かねば入れることはしません』
「その先日訪れたという女性のことを追っているのよ。彼女は先日亡くなったから」
『そうですか。強い鬼女の力を感じましたが……残念です。そういうことならお入りなさい。卑弥呼お姉さまの手記、読まれれば良いでしょう』
そう言って脳内への音声は途切れた。
結界は解かれていないけど、なんか行ける気がする。
「行きましょう、氷彗さん」
「えぇ」
私たちは一歩を踏み出した。




