041 復讐者たち
『ニュース速報です。魔法省の伊月秀斗大臣が民間魔法少女団体、ゾディアックとの連携を始めると声明を発表しました。ゾディアックは成立時期などは不明ですが、古くから魔法少女としての活動を続けており、近年では国営の魔法少女試験に落ちた少女たちの受け皿になる側面もありました』
氷彗さんの手作りケーキの味が苦くなっていく感覚。
ビターなオーラを発しているのはもちろん氷彗さんだった。
「伊月……なぜゾディアックなの? よりにもよって……」
正直、伊月さんは氷彗さんが警戒するような人じゃ無いのではないかと思っていた。事実として就任から2ヶ月、まったく動きを見せなかったから。
ただここで動いてきた。ゾディアックという民間魔法少女団体との協力。氷彗さん曰く、カルト宗教だというゾディアックと。
「有馬さん、大丈夫でしょうか」
「………………」
長い沈黙で「わからない」を表した氷彗さん。
有馬さんは氷彗さんの元妹で、氷彗さんが魔法少女を辞めさせた過去がある。有馬さんはそれを恨み、ゾディアックに入って氷彗さんに復讐しようという意思を見せていた。
ここで終わればまだマシだったのに、無情にもさらにニュース速報は続いた。
『さらに伊月大臣は昨今の国際情勢を踏まえ、魔法少女と自衛隊の合同訓練を行う姿勢を見せました。これは明確に魔法少女の軍事転用化の意図が見え、各国と渡り合うために魔法少女の力を惜しみなく使う方針のようです』
始まった……!
心構えしていた私はそう思った。
「ひ、氷彗さん。どうするんですか?」
「……もちろん徹底的に反対するわ。こんなこと許されるはずがない」
氷彗さんが言葉に強い怒気を込めた頃、コンコンコンと丁寧にドアが3回ノックされた。
誰だろう、と思ってドアを開けた瞬間、そこには見ただけで息が止まるような冷たい目をした黒髪ロングの少女が立っていた。
「有馬……皐月さん」
「久しぶり。山吹さんの妹」
「ど、どうしてここに?」
「ニュースを見てないの? 私たちゾディアックと魔法少女は協力関係を結ぶことになったの。今日はそのために足を運んだってわけ」
「有馬皐月!」
氷彗さんが驚いた様子で部屋の奥から出てきた。
氷彗さんが出てきた瞬間、有馬さんの目がさらに冷たくなったのを感じる。
「2ヶ月ぶりですね。2人も隠れてないで出ておいでよ」
「ちぇ。もう少しサプライズしてやりたかったのになぁ」
「さっちゃんはせっかちだからねー」
なに? なになになに!? 女の子がまた増えて3人になったよ!?
気怠げそうな短い金髪を両端で束ねた子と、眼鏡をかけた茶髪ミディアムの子。
「宝塚菊……安田優!?」
どうやら氷彗さんには心当たりがあるようだ。というかこの人数、流れならなんとなくわかる。
「皆さん……氷彗さんの元妹ですか?」
「あぁそうだ。アタシら全員山吹先輩に辞めされられたんだ」
「山姉は厳しかったもんねー。みんな口を揃えて当時のことを振り返っているよー?」
まさか氷彗さんの元妹全員がゾディアックにいるだなんて……。
なごやかそうな空気だけど、どこか一触即発な雰囲気の方が強く感じた。
元妹たちはおそらく私の一個上から二個上。高校生の彼女たちに負のオーラを隠すということはできないらしい。
「んじゃ、挨拶はこれくらいにしようぜ」
菊と呼ばれた金髪の子はせっかちなのかもう立ち去ろうとする。でもずっと睨む目は氷彗さんに向いていた。
「そうだね〜。菊ちゃんはせっかちさんだもんね」
優と呼ばれた眼鏡の茶髪ガールは穏やかそうに菊さんに続く。
「ではまた。いつかお会いすることになるでしょう。その時にはどうぞよろしくお願いします。山吹さん」
黒い瞳のハイライトは失われている。それを向けられたのだから怖いというものではない。
3人の元妹は立ち去り、私たちの部屋には先ほどのお祝いムードはどこへやら、一転してお通夜のムードになってしまった。
「私のせいだわ。私の……」
「やめてください! そんなの氷彗さんらしくありません!」
自分を責める気持ちはわかる。こうなったら自分のせいだと思ってしまうし、贔屓目なしに言えばぶっちゃけ氷彗さんが悪い。
ただここで自分のせいにして落ち込むのは氷彗さんらしくない。そんな姉の姿を見るために魔法少女になったわけじゃないんだから!
「だって私は3人の妹を傷つけたのよ? 3人の妹をゾディアックに入れてしまったのよ? 伊月も協力しているみたいだし、これから彼女たちが戦地に行くようなことになれば……」
「氷彗さん!!!」
自らを責め続ける氷彗さんに、私は叫びながら抱きついた。
ブラッディさんと引き分けた時、私は布団越しに抱きついたけど、今回は勇気を振り絞って生で抱きついた。
「私も一緒になってあの子たちのために頑張ります。氷彗さんには私がいるじゃないですか。どんな過去があろうと私が今の、氷彗さんの妹です」
「愛梨……」
「だから頑張りましょう。ここからあの子たちに認めてもらうための働きをしましょう! きっといがみ合い以外の解決策もあるはずです」
私の言葉に、氷彗さんは一言も返さなかった。
ただただ泣きついて、私を抱きしめた。なんだかすごく、満足できた日だった。




