040 昇格祝い
工藤元大臣の訃報が流れてから2ヶ月。私たちは日々訓練と、エネミーが出てきたら出動を繰り返していた。
少し外に出るだけで汗ばむ季節になり、私の学校も夏休みになった。そんな7月下旬、ついに……
「やっと魔法少女センターの復活ですね〜」
「えぇ。長いようであっという間だったわね」
寮の窓から見える白い建物。新築の魔法少女センターが堂々と聳え立っていた。
今度は国会議事堂と同じ外観とかそんなことはせず、普通に白い清潔感のあるビルだ。
今日から私たちも足を運ぶことができる。といっても魔法少女センターに行く用事なんて限られているからその機会は限られていそう。
「愛梨は夏休みよね? 宿題は順調?」
「嫌だな氷彗さん。まだ夏休みが始まって2日ですよ」
「ん?」
「ん?」
沈黙。謎の空気に包まれる。
「普通宿題って最初の1週間で終わらせるものでしょう?」
「そ、そんなことありませんよ! 絶対最後ですって!」
変なことで議論になった。宿題を夏休みの最初に終わらせるなんて人間離れしたもの、私にはできない。
「そう。私は中学の時そうしていたけど。まぁちゃんと提出するのならこれ以上は言わないわ」
一応私の意見・言い分も聞いてくれるみたい。よかった……今から地獄の宿題タイムになるかと思った。
「それで? 最近どうなの、訓練の方は。出動時になんとなくわかっているけど、だいぶ伸びてきたんじゃない?」
「はい! 幸ちゃんと一緒に頑張って成長しているつもりです!」
ここ最近は午前中は氷彗さんと、午後からは幸ちゃんと訓練をしている。その間、氷彗さんは夜伽さんを引っ張り出して訓練に付き合わせたり、夜伽さんがダメな時は風香さんと訓練をしている。
午前中は氷彗さんとの時間が生まれる喜びがあるし、午後はしっかり自分のペースに近い人と訓練できるやりがいがあって、最近魔法少女であることがより楽しい。
そんな時ふと、氷彗さんが立ち上がった。
「桜坂愛梨」
「は、はい!」
私と打ち解ける前のように、氷彗さんは私のことを改まってフルネームで呼んだ。それが衝撃的でつい返事が詰まってしまった。
「あなたを姉の権限のもと、クラス2に昇格させるわ。もし辞退するのなら自由だけど?」
「え……私がクラス2ですか!?」
「えぇ。本来は豊田市のエネミーを一人で倒した時点で昇格させるべきだった。でも愛梨がまだ未熟だと勝手に決めつけて、昇格を躊躇っていたのよ。でも今の愛梨なら大丈夫。胸を張ってクラス2に昇格しなさい」
「はい……はい! クラス2になります!」
「そう。なら必要な書類がここにあるから書き込むことね。あとで私から須藤室長に届けておくわ」
やった〜♪ ついに私もクラス2だ!
っていうかクラス2って姉の権限によってなれるものなんだね。知らなかった。てっきり魔法少女センターから通知でもくるのかと思ってたよ。
「4月から魔法少女になったということにして、4ヶ月でクラス2なのだから順調よ。今年中にクラス3になれるといいわね」
「クラス3も氷彗さんに認められることが必要ですか?」
そう尋ねると氷彗さんは首を横に振った。
「クラス3昇格は魔法少女センターが判断することよ。まぁ私も厳しめに評価していたから、今さら愛梨に油断するなという必要はないわね」
つまり魔法少女センターも厳しめの判定なんだ。まぁそりゃそうだよね、上級魔法少女になる一歩手前なんだもん。
「さて、今日はお祝いね。ケーキを用意してあるわ」
「ええっ!? ケーキを!?」
氷彗さんがただ食べたかっただけ疑惑もあるけど、素直に嬉しい。
氷彗さんが持ってきてくれたホールのショートケーキはお世辞にも綺麗といえるものではなかった。もしかしてこれ……
「氷彗さん、このケーキ……」
「わ、私の手作りよ」
氷彗さんが恥ずかしそうにそう呟く。
マジか……氷彗さんの手作りケーキ! たぶん初めて人に食べさせるんだろうな〜というのはなんとなくわかる。
「すっごく嬉しいです! 氷彗さんが私のために作ってくれたんですよね?」
「え、えぇ。そうよ」
「私のために」を強調して、氷彗さんの脳内にそういう事実を強く埋め込んだ。
さぁ〜て、氷彗さんの手作りケーキ、どんな味かな〜。
「いただきまーす! あむっ」
私史上最大の口の開け具合。かぶりつくようにショートケーキを口いっぱいに入れた。
少し硬いクリーム、季節を終えて酸っぱくなったイチゴ、ちょっとパサついているスポンジ。もちろんプロの作ったショートケーキに比べれば何段も劣る。でも……
「美味しいです氷彗さん! とっても!」
「そ、そう? なら良かったわ」
私の感想を聞いて心底安心した様子の氷彗さん。
ほんわかした空気。次のニュース速報が流れるまで、その時間は続いたのでした。




