004 山吹氷彗
氷彗さんの表情に怒りが現れてから、私は彼女に話しかけることができなくなった。
氷彗さんから私に話しかけてくることはないので、必然的に黙って担当者さんを待つことになる。それがとんでもなく……苦痛!
気まずいったらありゃしない。でもこれ以上地雷を踏んで氷彗さんを怒らせるのも嫌だし……ここは我慢の静だ!
そんな沈黙を破ったのは15分後、元気はつらつな女性が黒松のドアを開けた時だった。
「お待たせ! 仲良くなれ……てる?」
途中から疑問符になった女性。結果はもちろんNoだけど、それを口にすることは憚られた。
「まぁいいわ。とりあえず桜坂さん、あなたの魔法少女道具を渡す準備ができたから、山吹さんと一緒についてきて。いい?」
「は、はい!」
「なんで私まで……」
ひぃぃ……氷彗さん不満げだぁ。
女性について行くと大きくて白い部屋、第一採用室と書かれた部屋に案内された。ここは私も知っている。魔法少女試験に合格した子だけが入れる部屋だ。私は落ちたから1ヶ月前には入れなかった場所。
「桜坂さん、これを」
「こ、これって……」
女性に渡されたのは白くて薄い、半月状の板。
「魔法少女変身装置、通称『マギア・ムーン』よ。今ここで変身してもらえる?」
「わ、わかりました」
私は半月状の板を掴んで、握る力を強める。イメージするのは、魔法少女になった自分!
やがて桃色の粒子がマギア・ムーンから溢れ出して、私の身を包んでいった。
イメージしてから数秒。私の衣装は桃色の袴姿となった。あの時は必死だったから袴だったなんて知らなかったよ。
「本当に変身できるのね。もしできないのであれば即刻クビにしてもらおうかと思ったのに」
氷彗さんはかなり強めの毒を私に吐いた。何も言い返せないから黙るしかない。
「じゃあ桜坂さん、あなたにはそれを渡すから。もし壊れたりしたら交換するからね。だからといってできるだけ壊さないように! それ一個で200万円とかするから」
「えっ!? ……わ、わかりました!」
200万円……そう思うと怖くなってきた。
「あとこれね。魔法少女センターに繋がるスマートフォン。エネミーを討伐したり、とてもじゃないけど敵わない相手だった時など応援要請をするときに使ってね」
「わ、わかりました……ちなみにこれは?」
「あぁ、それは9万円くらいよ」
そういって女性はケラケラと笑った。たぶん私の値段に対する反応が面白かったんだと思う。
「じゃあ私はここで失礼するわね。あとは山吹さん、姉としてよろしくね」
「……はい」
そう言って女性は第一採用室を後にして、再び私たちを2人きりにした。
「ついて来なさい」
「えっ!? あ、はい!」
話しかけられることはないと思っていたけど、すぐに氷彗さんは私を呼んで歩いていった。
第一採用室の奥はガラス張りになっていて、地下が見えるようになっていた。そこではたくさんの魔法少女が戦っている。
「こ、これって……」
「魔法少女訓練室。ここの地下通路からも入れるわ」
「魔法少女同士で戦っているのは姉が妹を鍛えるためですか?」
「基本的にはそうね。私はそうじゃないけど」
「え?」
私が問い返す前に氷彗さんは一瞬で魔法少女の姿に変身してしまった。
衣装を身に纏った氷彗さんはさながら雪の女王だ。水色のワンピースドレスに散りばめられたスパンコールはダイヤモンドダストのようにキラキラと光り輝いている。
なんか……私とだいぶ差がない? こっち袴だよ? 可愛いけどさ。
大事なのはそこじゃない。なんで今この場で氷彗さんが変身したのかということの方が重要だ。
「えっと……なぜ今変身を?」
「黙ってついてきなさい」
「あ、はい」
ダメだ、基本的に聞き入れてはもらえないみたいだね。
氷彗さんと一緒に第一採用室に併設されていた階段を降りて、地下の訓練室にやってきた。ここはあまりにだだっ広いから迷子になりそう。どれくらい広いのかな……サッカーコート9面分くらい?
訓練室入り口から少し歩いたところで氷彗さんは立ち止まった。訓練室の天井から降り注ぐ明かりによって、氷彗さんのドレスの美しさがさらに増しているのがわかった。
ふと、氷彗さんの右手が光った。次の瞬間、右手から氷が生えてきて剣となる。そしてその剣を握った氷彗さんは……
「ふっ!!」
「……えっ?」
私に斬りかかってきたのです。




