038 サキュバス!?
もう何度訪れただろう。
そんな感想を抱くほど慣れてしまった訓練室にて、私は夜伽さんを目の前にしている。
氷彗さんとブラッディさんの協力同盟的なものに夜伽さんを誘い入れる。そこまではいいんだけど、その条件が私が夜伽さんに勝ったらっていうのが意味わからない。
「あの……勝てるわけないんですけど」
「あれあれ〜? さっき愛梨は私のこと本当に強いの? とか聞いてきたよね? それなら大丈夫なんじゃないの〜?」
夜伽さんは私の言葉を根に持っていますと隠しもしない言葉を投げかけてきた。
たしかに夜伽さんはエッチばっかりな生活で衰えたんじゃないかとは言った。でもそれは比較対象が氷彗さんなのであって、私ではない。
「せーの「「お姉さま〜頑張って〜」」」
夜伽さんのエッチ相手ガールズは観客席から黄色い声援を送っている。それに応えるように、夜伽さんはマギア・ムーンを握った。
ちなみに今はちゃんと服を着ている。というか着させた。流石に半裸で訓練室を歩かせるわけにもいかないからね。
「変身」
まずは私から変身した。こうなったらとりあえずやれるだけやるしかない。観客席から注がれる氷彗さんの視線は痛いけど、できることなら期待に応えたい。
桃色の袴に身を包み、私は戦闘準備を整えた。
「へ〜んしん!」
くるっと回ってあざとく変身する夜伽さん。やっぱりどこかアイドルみたいだ。
夜伽さんの身体は黒い衣装で包まれていく。そして完成したその姿はどう見ても……
「え……サキュバス!?」
「あはっ☆ せいか〜い」
いろんなところが空いていて、素肌が見えている。お尻のところなんて見えるか見えないか超ギリギリだ。
そしてそのギリギリを攻めたお尻からは黒い尻尾が生えている。先端は逆ハート型になっていて、プスッと相手に刺すことができそうだ。
もはやこの衣装のどこが魔法少女なのか理解できない。むしろ敵側じゃんとしか思えないけど、魔法少女として着ているのなら新人の私には納得するほかない。
「さて始めよっか。愛梨はクラス1?」
「あ、はい。クラス1です」
「そ。なら……2割でいいかな」
そう言って夜伽さんは加速した。突っ込んでくると判断した私は迎え撃つための『桜花一閃』を準備しておく。
「綺麗な桜だね。でもバイバイ」
「えっ……」
私の『桜花一閃』が割れた!? どういうこと!?
「愛梨、夜伽ルナは魔力を壊す力を持っているわ。設置型や常駐型の魔法は効かないから注意することね」
言うのが遅いです、氷彗さん!
でもまぁ一見もせずにそれを聞いていたら何のことか理解すらできていなかったと思う。だから氷彗さんは一度見せてくれたのかもしれない。
「氷彗ずるーい。アドバイス禁止〜」
「クラス1相手にそれを使うあなたもどうかと思うわよ」
夜伽さんは一度立ち止まって氷彗さんに文句を言った。
納得はしていない様子だけど戦闘は再開する。
「まぁいいや〜。愛梨、避けられるかな〜?」
何かが来る! ……怖いし『桜花護皆』も使えないから詰んでる。ただ避けられれば大丈夫なはず! 信じるんだ、氷彗さんの攻撃をなんとか避けようとした自分を。
「『サキュバス・テール』」
夜伽さんのお尻に生えた尻尾が伸び、私の方へ向かってきた。
予想通り尻尾の先端は刺すためのもののようで、鞭と槍を合体させたような武器だ。しなってトリッキーな動きで私へと向かってくる。
いやこれ……避けられるわけない!
「うっ!」
ちょうど私の胸あたりに尻尾が突き刺さってしまった。それを見た夜伽さんは満足そうにニヤッとする。
「あはっ☆ 愛梨のおっぱいにヒット〜」
「ぐっ……」
手で抜こうにも抜けない! ハート型のせいで返しがついているんだ!
「じゃ、勝たせてもらおうかな〜。『サキュバスドレイン』」
ジェットコースターに乗って、降りる時に味わうフワッとした感覚。それを今ここで味わった。魔力が吸われているんだと、直感的にわかる。
私の魔力は尻尾を伝い、夜伽さんの元へ。吸い込んだ夜伽さんは桃色に光った。
「う〜ん、ご馳走様♡ ……あれ? なんか目眩……が……」
その瞬間、夜伽さんの足元がおぼつかなくなった。そしてフラフラと千鳥足になり、やがて床に伏してしまう。
作戦の一つかと思ったけど、すぐに夜伽さんの変身が解けた。これは……何かがおかしい!
「愛梨! 医療センターへ連絡!」
「は、はい!」
氷彗さんも異常を感じてか、訓練室へと走ってきた。
何が起こったのかわからないまま、私は医療センターへ電話をかけた。やがて救急隊が到着し、隣接された病院へ夜伽さんは運ばれていった。
……いったい、どうしたんだろう。




