037 夜伽ルナ
むせかえるほどの女の子の匂い。それが充満した部屋ではもはや白色の壁紙まで桃色に見えてきてしまう。
「で〜? 話ってなに?」
癖っ毛のある金髪オッドアイのクラス6、夜伽ルナさんは全裸のまま氷彗さんに質問を投げかけた。
見てはいけないと思うんだけど、どうしても全裸でいられると大切なところに目がいってしまう。
「人の話を聞く前にまず服を着たらどうかしら」
「あ〜〜、服なんて数日ぶりだから忘れてたよ」
ごめんねと言いながら夜伽さんは黒い下着を履き、そして上にシャツを羽織った。そのまま椅子に座ってしまう。……え? 着替えそれだけ?
白いシャツから透けまくってる黒いブラジャーと、裾からチラチラと覗かせるパンティ。もはや着てない時の方がマシだったような気がするほど色気がある。
氷彗さんの顔を見ると明らかに不機嫌だし、ちょっと引き攣っている。こんな顔は初めて見るかも。
「はぁ、もういいわ。本題に入りましょう」
完全に諦めた様子の氷彗さん。
「あ、その前にいい?」
夜伽さんが手を挙げて氷彗さんの話を遮った。
また1段階、氷彗さんの怒りメーターが上がった気がするけどそんなことお構いなしに夜伽さんは視線を私に移し、質問を続けた。
「あなたはだぁれ? 氷彗の妹ってわけじゃないでしょ?」
「あ……いえ! 氷彗さんの妹です。桜坂愛梨と申します!」
私が自己紹介すると夜伽さんは心底驚いたように目を見開いた。
「氷彗が妹を取るなんて珍し〜」
「やっぱりそう思われるんですね」
「当然だよ〜。今までの妹には散々なことをしてきたんだしさ〜。変身できないからって出来損ないと呼んだり。愛梨? はどうやって氷彗に認めてもらえたの? 身体で?」
身体で? と言った瞬間にシャツをチラッとめくってわざとパンティを見せつけてきた夜伽さん。
私は慌てふためいて手を振り、そうではないことを意思表示した。
「あまり人の妹を揶揄わないでくれる?」
「ごめんごめん。ちょっと興味出たからさ。百合セックス以外に興味持つこと、久しぶりかも」
この人すごいサラッとセックスって言うなぁ。恥ずかしくないのかな。
でもこのやり取り、改めて氷彗さんの凄さを感じる。だって氷彗さんは17歳、夜伽さんは21歳なのに対等に話しているんだもんね。
「で? 2人はしたの? セックス」
「ぶっ!?」
「ゴホッ、ゴホッ」
夜伽さんの爆弾質問により、私は吹き出し氷彗さんは咳き込んでしまった。
「反応可愛い〜。ウブかよ〜」
「ウブですよ!」
「もういいでしょう! こちらの話を聞きなさい!」
ついにブチギレてしまった氷彗さん。顔を真っ赤にして怒っている。
「あはは〜。ついそういう話にしたくなっちゃうんだよね〜。いいよ、聞くよー」
今度こそちゃんと聞きまーすとばかりに夜伽さんは口に指を当てて話しませーんとアピールした。
「はぁ。あなたは知らないだろうけど工藤かず子さんが亡くなったわ。これに伴って大臣が伊月秀斗になった」
「へぇ〜。工藤さん亡くなったんだ。まだ若くて可愛かったのに。残念」
わ、若くて可愛い!? まさか夜伽さんって工藤さんのことも肉体的な意味で見ていたの? ……いやでも工藤さんなら喜ぶかも?
「伊月ってあの若いイケメンだっけ」
「イケメンかはともかく、若い男よ」
「男には興味ないからどうでもいいや。私に関係ある? それ」
伊月さんの話題に移った瞬間、夜伽さんの機嫌が明らかに悪くなった。ストライクゾーンは女の子だけなんだね。
「大ありよ。ここからは愛梨も初めて聞く話になるけど、今世界では水面下で魔法少女の軍事利用化が進もうとしている。そんなことになったら魔法少女同士が戦う地獄になるわ。人型エネミーにも対応できていないのに、同士で打ち合うのは本意じゃない。あなたも、あなたの妹たちも戦争に駆り出されるかもしれないわよ」
魔法少女の軍事利用? 政治的な話になった途端によくわからなくなった。けど最悪なことだけはよくわかる。
「ちなみに伊月は軍事利用化に賛成しているわ。まさに最悪の事態を迎えようとしている」
「ふんふん、それで〜?」
夜伽さんは声の調子は変わっていないけど、明らかに氷彗さんの本意を聞く姿勢になった気がする。
「あなたに協力をお願いしたい。ルーマニアのクラス6ブラッディ・カーマと日本では私、そして夜伽ルナ。3人のクラス6が軍事化に徹底反対することでこの流れに歯止めをつけられるはずよ。賛同者も多く出てくるはずだわ」
「ふ〜〜ん。そういうこと、ね」
この話を聞く限り、私の中で賛成する以外の選択肢は見つからない。なのに何でだろう。何で今、私は夜伽さんが次に「No」と言う気がしているんだろう。
「協力はしないかなぁ」
その言葉にハッとした。何で今、少しだけ予知みたいなことができたんだろう。
「理由を聞かせてくれるかしら?」
「人型エネミーが今の課題でしょ? 魔法少女が強くなるためには少しは競争が必要なんじゃないかな〜? そのために戦争があって、少数精鋭になるのも悪くはないと思うよ〜」
「それは私も考えたわ。でも妹ができて考えが変わった。魔法少女の誰一人、死なせたくない」
「へ〜。それは変わったね〜」
私の焦燥をよそに話は進んでいく。
私もちょっと先が読めたことくらいで気にしていられないと頭を切り替えた。単に雰囲気を読むくらい誰にでもたまにはあることだしね。
「私に関係ある話って言ってたけどさぁ。たぶん無いよ。だって私も妹たちも強いもん。クラスは下級だけど、誰にも負けないんじゃないかな」
「あなたは自分と妹たちさえ良ければそれでいいのね?」
「まぁね〜。肉欲に溺れられればそれでいいよ」
清々しいまでの欲望のままに生きる宣言。今度ばかりは氷彗さんも頭を抱えることなく、冷静になって悩み始めた。
「あの……本当に夜伽さんって強いんですか? エッチなことばっかりしてて、衰えたりしているんじゃ?」
私はもっともな質問を投げかけた。
訓練も実戦も積まずに毎日部屋でエッチ三昧。そんなんで強くなれるとは思えないし、日に日に衰えていく気がする。
そんな私の質問に対し、夜伽さんは少しニヤッとして答えた。
「試してみる?」
「え?」
「……夜伽ルナ、まさかあなた」
「うん。久しぶりに外、出ようか。氷彗、協力をしてあげてもいいよ。ただし……この子が私に勝てたらね」
「ん? ……んんっ!?」
なんだかややこしい方向に話が進んでしまった気がします。




